Silly Boy
がつっ!!
「…………………………っ!」
伝わる硬い衝撃。
ゾロは、一歩下がった。
ぎゅっと拳を握り込む。
ばきっ!!
サンジの顔からサングラスが飛んだ。
焼き付くようなパーフェクト・ブルー。
睨み付ける衝撃。
……………その眼が。
どうしたらいいかだと?
そんなの、もうお前は。
「……………わかってるだろうが」
サンジは数歩たたらを踏んだ。
視線はゾロから外さない。
吐き捨てるように呟く。
「ああわかってるよ」
サンジは腕を振りかぶった。
「そうだよ俺は守れなかったんだよっ!」
叩きつける。
……………拳が、酷く痛んだ。
「情けねェのは自覚してんだよっ!!守る守るって結局なんも守れなかったんだよっ!テメェも口先だけのミジメな男だと思ってんだろその通りだよっ!」
――――ああ。
「でもだからって止められるのかよっ!?」
『ハル』が。
「情けなくて弱くてミジメだからって諦められんのかっ!?それが出来ねェからこうなってんだろが!ソレを許しちまったら俺の負けじゃねェかよっ!?」
『ファイ』が。
「俺にもなにか守れるって思いたいんだよっ!自己満足なんだってのも自覚済みだよただのジジイの代わりだっ!でも命だって捨ててやるよ俺にも何か守れるなら!あの時守れたなら!」
『キディ』が。
「なんでこんなんテメェに言わなきゃならねェんだクソが!俺のケジメだ誰にも文句なんか言わせねェ!俺がっ!俺の為にっ!」
―――――はがれ落ちていく。
「………だから、そんなん知るかよ」
がっ!
ゾロがサンジを殴る。歯が砕けるイヤな感触。
「テメェが後悔すんのは勝手だがな。そんなん知らねぇんだよ」
しかめ面で言うゾロ。
サンジは怯まず殴り返した。
ごっ!
前歯とサンジの拳に挟まれた薄い皮膚が裂ける。
「だから放っとけっつってんだよ!なんなんだよテメェはいきなりしゃしゃり出てきて人の人生にまで文句付けやがってよ!誰がテメェに俺のコト気にしてくれって頼んだよこのお節介野郎っ!」
どがっ!
サンジの横面がまた張り飛ばされた。
「……じゃあ俺の前に現れなきゃ良かっただろがっ!勝手に引っかき回して一人で終わらせようとして、はっきり言ってオマエスゲェワガママなんだよっ!しかも目障りだ目の前でふらふらふらふらしやがってっ!」
どごっ!
手の甲の硬い部分がゾロのあごにぶち当たる。
「そんなんテメェのせいじゃねェかよ、なんでテメェがキレてんだっ!?怒りたいのは俺なんだよなんも知らねェくせに人の痛ェトコばっか突いてきやがってよっ!?テメェにだきゃあ言われたかねェんだよ見て見ぬフリくらい覚えやがれっ!」
がすっ!
「ソレが出来たらテメェと死にそうになるまで殴り合ってねェんだよっ!」
ごきっ!
「だからなんでだよっ!?俺に口出しすんじゃねぇ、テメェには完全に完璧に何処をどうひっくり返してつつき回したって関係ねェだろがっ!?」
ゾロの手が、止まった。
満身創痍。
今は二人ともその言葉以外にはしっくりこないであろう。
血塗れで、砂まみれで。
何故か刀も足も使わずに殴り合って。
子供のような口げんかをして。
何本も骨を折って。
多分このまま放っておけば死ぬかも知れなくて。
ゾロは薄く笑った。
馬鹿馬鹿しい。
「―――ああ、関係ねぇよ」
一歩、サンジへと踏み出す。
「だけどそれこそ『関係ねぇ』んだ」
思い切り体重をのせた一撃を―――近年まれにみるワガママ野郎に。
「俺がオマエを死なせたくないって言ってんだ!」
がっ!!
――――サンジは盛大に吹き飛んで、砂浜に大の字に倒れた。
ゾロは今日何度目になるかわからない溜息を吐く。
「…………………それっくらいわかれよ。バカ」
+++ +++ +++
「バカヤローーーーーーーーーーーーーっ!!」
「っ!?」
「げっ!?」
ゾロとサンジはいきなりの罵声に、驚いて息を詰まらせた。
「さっきから黙ってみてれば…………!オマエら、何してんだっ!死んじゃうじゃないかっ!」
チョッパーが懸命にに手すりにしがみついて、角を振りかざして怒っている。
「……………………」
「……………………」
しばらくそれを呆然と眺めて、ゾロはいきなり吹き出した。
「?」
「ホラな」
親指で後ろを示す。
チョッパーの回りには、いつの間にやら人影が増えていた。
腕を組んで呆れているナミ。
心配顔のウソップ。
にこにこしながら手を振っているルフィ。
「………テメェは死んでもケジメつけたいってんだろ。いいぜ、ソレは一意見として取り入れてやる」
「……なんでそんな偉そうなんだテメェ」
苦い顔でサンジが呻く。
体中が痛い。このバカ力め。
「でもな。テメェを死なせたくないヤツの方がな、残念な事にいっぱいいるんだよバカ」
「……………………………」
足が痛い。膝が痛い。太股が痛い。
脇腹が痛い。胸が痛い。背中が痛い。
肩が痛い。腕が痛い。手が痛い。
口ん中、血の味しかしない。
「多数決で、テメェは負けだ」
「ワガママ言うんじゃねェよ」
「文句言ったらぶっ殺すぞ」
「なにも、ケジメつけるなとは言ってねぇよ…………生きて、帰ってくりゃいいんだよ」
………………頭が痛ェよ。助けてくれジジイ。
+++ +++ +++
長い時間、二人は黙っていた。
…………サングラスは何処へ行った?
壊れてたら、オロしてやる。
サンジは両腕を顔の前で交差させたまま、ぽつりと呟いた。
「テメェ、ツラの皮厚いんだよ……」
「おお。ウリだ」
「…………殴った手の方が痛ェじゃねェかよ」
くだらねェ。
くだらねェよ。
まったく。
俺が、バカみたいじゃねェか。
「オマエ…………キライだ」
「おお、上等だ」
それからゾロも、仰向けに倒れた。
いい天気だ。
――――普段なら、昼寝をしているのに。
………………でもまあ、いいか。
そんな日も、あるだろ。
本日の被害状況: サンジ‥‥ようやく塞がりかけた傷口が全部開く。骨折、無数。打撲、無数。打ち身、無数。捻挫、右足首と両手首。奥歯二本損傷。出血多量。瀕死。 ゾロ‥‥骨折無数。打撲、無数。打ち身、無数。内臓損傷。内出血多量。重傷。
被害原因:ケンカ。
処置:チョッパーの地獄の治療+泣き落とし+怒声。
ナミの感想:「馬鹿は死んでも治らない」
「…………ホント、バカよね。男って生き物は」
「羨ましいのか?ナミ」
「んなわきゃないでしょうがっ!!!」
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