Silly Boy




「―――今のテメェは、弱ェんだよ」
「……………なんだと?」

 サンジの唇が凶悪につり上がった。
 ざっ、と足を開いてゾロと対峙する。
 とげとげしい雰囲気をまき散らして、強くゾロをにらみ返した。

「―――脳味噌寝てんのかテメェは。それともフルコースが喰らいたいのかよ……?そんなにHevenが見にイきてェならもう一遍言ってみやがれ…………!」

 肩をつり上がらせ、重い声音でうなるサンジ。
 ゾロは軽く首をすくめた。



「いくらでもやってみろよこの雑魚野郎」



 だっ


 ゾロの台詞が終わるか終わらないかのうちに、サンジは砂を蹴った。
 黒い影が滑る。
 まるで瞬間移動でもしたかのように、次の瞬間サンジはゾロの目の前に現れた。

「!!」

 ―――そして立て続けに響く打撃音。

 がんっ!
 だんっ!
 ばきっ!
 ががんっ!
 どごっ!
 ぼがっ!

 時折見える残像で、サンジはまるで黒い竜巻のように見える。
 容赦のない蹴りが神速でゾロに叩き込まれる。

 ゾロは避けなかった。

 どがっ!
 ごっ!
 ばきゃっ!
 どっ!
 どすっ!
 めきゃっ!

 間断なく続く蹴り。
 辺りの砂の上に細かな血がぱらぱらと飛んだ。
 果たしてそれはゾロの血かサンジの血か。
 ………それともその両方か。

「俺が弱いだと……………!」

 ずむっ!
 ぼきっ!
 だんっ!
 どがんっ!


 鈍い音。
 どこかの骨が砕けたか。

 常人なら、その気になれば一発で蹴り殺せるサンジの足が、何回もゾロの体を抉る。
 ごふっ、と喉が鳴った。


 ごぎぃっ!!


 最後にサンジのつま先が、ゾロのあごにめりこみ、蹴り上げた。

 ゾロのブーツが、地面から数センチ浮く。

「……………………………」

 今度こそ、終わりを確信したサンジは、足を降ろした。
 その足は血塗れで、じくじくと靴の隙間から地面に流れ落ちている。

「…………………は」
「……………!」

 律儀に全部喰らったゾロは―――しかし、倒れなかった。
 驚きにサンジの肩が微かに揺れる。

 ゾロは切れた唇から血を吐き出して、しっかりと地を踏みしめた。
 少しふらつく両足を叱咤し、ゾロは膝に力を込める。
 見える範囲の皮膚はくまなく腫れ上がり、こめかみから激しく流血している。
 右目の上が切れており、その為目に入ろうとする血を、手のひらで乱暴に拭った。

 そしてにやりと不敵に笑う。

 サンジを見つめて、ゾロは派手に啖呵を切った。



「きかねぇんだよ」



「怪我してるからじゃねェぞ」
「そんな中途半端な覚悟の蹴りなんか、全然きかねぇんだよ」

「中途半端だと………?」

 サンジは拳を握りしめた。
 力の込め過ぎで手が白く染まる。

「眼が死んでんだよ」

 サングラスの奧にある筈の瞳を見つめたまま、ゾロは吠えた。


「闘う前から死ぬ気でいやがる大馬鹿野郎のへなちょこキックじゃ、なんにも出来ねぇって言ってんだよっ!!」



「テメェはそんな覚悟で何を守れるって言えるんだ!!ふざけてんじゃねぇっ!」







 ………………言うな。

 言わないでくれ。



 なんでテメェは人の痛いトコばっかりえぐるんだ。

 なんでテメェは俺の弱いトコが見えてんだ。



 だってしょうがねぇだろう。



 ……………他にどう落とし前つける方法があるんだ。


 ――――どうせ、ケジメをつけたら一緒にイく気だった。


 教えられるもんなら教えてみやがれ。

 ジジイを殺す手伝いをした俺が。






「………どのツラ下げて、生きていけるんだよ……教えてみやがれクソ野郎っ!!」






 がつっ!!




 サンジの手が、ゾロの左頬にめりこんだ。

 ―――鈍い痛みが腕を伝って這い上がった。




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