Silly Boy
ふと、思い出したのはエースの言葉。
『俺は、ハルを死なせたくないんだよ』
『アイツは危なっかしくて』
『思い込んだら一直線でさ』
『一個のことしか目にはいんねェし』
『器用貧乏だし?』
『誰かがついてて、ひっつかまえとかないと』
『以外とあっさり諦めそうなんだよな、人生』
『だから誰か』
『誰かが』
『なあ?』
―――――――そんなん、知るか。
俺は、俺のやりたいようにする。
+++ +++ +++
「テメェは人のこと呼びとめんのにいちいち凶器投げつけんのかこのアホっ!」
「じゃあ俺が声かけたら振り向いたのかお前はっ!?絶対ェ振りむかねェだろがっ!」
「当たり前だなんで俺がお前の為に時間さかなきゃいけねェんだよっ!?忙しいんだテメェは一人で遊んでろっ!」
「自分勝手もいい加減にしやがれ!つか、とにかく人の話を聞けっ!」
「それが人に話を聞いてもらう態度かよ土下座して俺の靴舐めて『申し訳ありませんが少しお耳をおかしくださいお願いいたしますサンジ様』って言え」
「ふざけんな自己中野郎っ!ワガママも休み休みいいやがれこのガキっ!テメェは何歳だ屁理屈ばっかこねんじゃねェ!」
「テメ今ガキっつったかっガキっていいやがったか!?上等だ、よっぽど死にてェんだなクソ野郎っ!遺体はちゃんと阿寒湖に水葬してやるぜっ!」
ゾロは盛大な溜息を吐いた。
こめかみに手を当て、三回大きく深呼吸する。
(アイツはガキだアイツはガキだアイツはガキだ大人になれ俺)
心を落ち着けてから顔をあげる。
真っ直ぐに相手を見た。
左腕をあげ、ゆっくりと一回だけ手招きする。
「―――――――いいから。来いよ」
沈黙。
先程までの騒音が嘘のように、波の音しか聞こえない。
数秒して、サンジが口を開いた。
「…………ヤだね」
そのままくるりと後ろを向き、歩きだそうとする。
その背中にむかってゾロは吠えた。
「来いよ!!」
「―――――ヤダっつってんだろうがっ!」
振り向かないままサンジは怒鳴る。
ゾロはあっさりと折れた。
「じゃあ俺から行く」
ざくざくと無造作に砂を蹴り上げ、サンジとの距離を詰める。
サンジは動かないが、振り向きもしない。
「テメェはよ。今にもぶっ倒れて死にそうなくせに、何処行くんだよ?」
「……………うるせェ黙れ」
「そんであっさり返り討ちにあって満足なのかよ?なにがしてェかしらねぇけど、ちょっとは考えて動けってんだよ」
「……………テメェの知ったことかよ」
「っつかよ。敵討ちで死ぬとかほざいてんのカッコ悪ィんだよ。もっと――」
「―――黙れ」
がつっ!
瞬間、サンジの体がぶれたように見えた。
容赦のない蹴りがゾロに飛ぶ。
クロスさせてガードした腕の上から、ゾロは真後ろに吹っ飛ばされた。
ゾロは数メートル吹き飛んで、砂浜に落ちた。
「ぐっ………」
小さくサンジがうめき声を漏らす。
スーツの裾からぽたりと血が落ちた。
無理に動いたため傷口が開いたらしい。
「…………………フン」
サンジは歯を食いしばって姿勢を立て直した。
興味を失ったように、また歩きだそうとする。
「………………………」
ざっ………
ゾロは、ゆっくりと交差させた腕を降ろした。
砂をはたいて軽く立ち上がる。
サンジが振り向く。
瞬間。
ぎらり、と魔獣の眼がサンジを射る。
軽く唇を舐め、ゾロは腹に響く低い声で唸った。
「――――何だその蹴りはよ?ナメてんのかテメェは」
ゾロはかったるそうに首をゴキゴキとひねる。
手首をぐるぐると回して、視線に力を込めた。
「まだわかってねェのか?ならはっきり言ってやる」
「―――今のテメェは、弱ェんだよ」
「……………なんだと?」
…………そんなん、つまんねぇじゃねぇかよ。
雑魚になんか成り下がるんじゃねぇよ。
―――そんなつまんねェモンにばっか気を取られてないで、
もっとちゃんと俺を見ろ。
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