Silly Boy



 ―――俺が正義だと、誰が言った?

 そうだね。アンタは、ちゃんとわかってる。

 ―――俺は後悔しない

 ……………ああ。

 アンタと俺は、同じだね。
 俺がジジイを失ったように、アンタも、全てを失ったんだね。


 …………大丈夫、殺意はまだ、あるよ。
 許せないから。
 どんな理由があろうとも、許すことが出来ないよ。

 ―――それを無意味だという奴がいたら殺してやる

 そう。
 そんなところまで、同じなのかも知れないね。




 殺意は、まだ、ある。

 けど、それは………誰に対してだろう?




 俺は、どうしたらいい?







+++ +++ +++



 ベルの屋敷から連れだしたサンジを見たときには、チョッパーですら一瞬、死んでいるのだと思った。それほど酷い有様だった。
 生きている、というより、かろうじて『死んでいない』と言った方が正しい。
 それをゾロに怒鳴りとばされて、必死で手術と手当を施し。

 ―――――それからもう、五日。

 いまだにサンジは目覚めない。
 GM号のベッドから、動かすこともできない。
 だんだんと、脈が弱くなっていくのがわかる。

 このまま目覚めない可能性なんて、知りたくない。
 医者としての自分を恨んだのは、初めてだった。


 GM号の一室を借り、チョッパーはサンジにつきっきりだった。
 クルーの顔と名前も覚え、サンジ以外にもつき合える人がいたということがわかった。
 シトロスの街はベル・ゴーディーの死に湧いており、海兵達がいつも以上にパトロールを強化し、Cheeky Jesusの追跡に尽力している。
 港に船を泊めておくのはまずいとナミが言うので、GM号はノーシィの街に近い小さな入り江につけてあった。薬や食料の買い出しは、森を一つ越えてシトロスまで買いに行っている。

 一番よく様子を見に来るのは、ナミである。
 サンジの怪我に責任を感じているらしく、よくよくサンジの様子を見に来る。
 ただ、けして不安そうな顔は見せない。チョッパーに気を使ってくれているのが、わかる。

 次によく来るのはウソップだ。
 ふさぎ込みがちなチョッパーの話し相手になってくれる。
 サンジのこともとても心配してくれるのが良く解り、チョッパーは彼と話していると最悪の想像を忘れられる。

 最後はルフィ。
 体がゴムであるという事はビックリした。彼は、いつもサンジを見ると「メシを作ってくれねぇかな」、とそればかり言っている。
 その言葉に、チョッパーは、サンジが別れの時に言った言葉を思い出し、彼らがそうなのではないか、とも思う。
 『そのままそいつらと同じ位置にいれたら』
 ただ、それをルフィに言うことはしなかった。
 チョッパーもルフィによく勧誘される。どうやら、船医になって欲しいらしい。
 少し、夢を描いて幸せな気分になれる。

 全く顔を出さないのは、ゾロである。
 最初にサンジをこの部屋に運び入れて以来、一回も足を運ばない。
 その為、他のメンバーに比べ、チョッパーがゾロと顔を合わす回数は極端に少なかった。
 チョッパーはサンジとゾロが居合わせた時の事を知っているため、彼はサンジのことが嫌いなのだと納得した。だから少し哀しくなった。
 クルーの中で、ゾロだけはまだ、苦手だった。
 ものすごい棒(チョッパーには最初何に使うのかわからなかった)をぶんぶんと振り回しているのをよく見かける。船の端に置いておいたら沈むのじゃないかと見る度に思う。

「サンジ…………」

 ただやはり、チョッパーの思考はそこに戻っていくのだった。
 何かで気を紛らわせても、その場しのぎにしかならない。

 彼の強さは知っているのだけれど。

 彼の弱さも知っているのだ。

 彼が目覚めたときにどういう行動をとるのか。
 ………多分自分はもう知ってしまっている。



+++ +++ +++




 サンジ、と自分を呼ぶ声はキライじゃなかった

 穏やかな赤い瞳を信頼していた

 自分の大切なものを守ってくれると思っていた

 大切な記憶の中にいつもいた



 今はもう、ない








 許せない


 でも同じくらい     だった





 なあジジイ

 これくらいじゃ俺は傷つかないよな




 もう答えは出ているけど


 俺が ホントは



 どうしたかったか 誰か 知ってるかな





 俺は 誰に 知って欲しかったんだろうな



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