Hard, Dry



「ルフィッ!!」

 真夜中を少し過ぎた頃。
 ついぞ聞いたことのない、魔女のせっぱ詰まった声に、ウソップは目を開けた。
 エースはもう去り、ルフィは何故かケーキを食わずに、空腹に目を回してぶっ倒れてしまっている。

「……ナミ?」

 男部屋のはしごを登り、甲板に顔を出す。

「お前――――!!」

 ウソップの目が見開いた。
 何故か、つい昼間ここでホットミルクを飲んだトナカイと、それに乗って乗っているナミは、ボロボロで、一目で何かあったとわかる惨状を呈している。

「ウソップ!ルフィとゾロを起こして!早く!!急いでっ!!急いでよっ!」

 パニックを起こしていることは容易に知れた。
 何が起こったのか、問いかけようとウソップが口を開く前に、その体が浮いて、はしごから甲板の上へ放り投げられる。

「うおおおおっ!?」
「何だ、ナミ?」

 代わりに首を出したのが、ついさっきまで目を回していた筈の船長。
 のほほんとした顔をしているが、仲間のhelpを聞き逃したことはない。

「ルフィ………助けて」
「何があった?」

 落ち着いている船長に、ナミのパニックが解かれる。
 チョッパーは激しく焦った様子でルフィの前に進み出、ナミを受け取るように促した。
 ルフィがナミを抱き上げると、チョッパーは、くるりと方向転換し、いきなり駆け出そうとした。
 その角を、ルフィが腕を伸ばして引き留める。

「放せよっ!!急いでるんだっ!」
「お前、ちょっと落ち着け。怪我してるぞ」

 衝撃から回復したウソップが、チョッパーを心配して声をかける。

「うるさいっ!放っとけよ、邪魔すんなっ」

 ばたばたとチョッパーは激しく首を振るが、ルフィの手は外れない。
 ルフィは、チョッパーがまた涙を流して、しかもそれが止まる様子を見せていないことに気付いていた。

「ルフィ、ゾロを起こしてっ!サンジ君を助けてっ!!お願い!」
「サンジ?」
「Cheely Jesusよ!早くしないと、どうなるか―――私を、助けてくれたのよっ!」
「だから何があったんだ?ナミ」

「――――落ち着いて説明しろ」

 いきなり後ろからかかった声に、チョッパーが首を巡らせた。
 三本刀の剣豪が、目を細く開いてこちらを見つめている。
 その視線の厳しさに、チョッパーは小さく首をすくめた。
 が、我に返って甲板をひづめで引っ掻く。

「そんなコトしてる時間がないんだっ!行かせてくれっ!」
「――――ナミ」
「サンジ君がっ!私を逃がす為に大怪我してっ、私達を先に逃がしてっ、自分は代わりに」

 いつものように上手く舌が回らないナミに舌打ちし、ゾロはルフィを見た。

「わかったか?」
「わかった」

 自信たっぷりに頷くルフィ。

「ホントかよ………」

 首を捻るウソップに構わず、ルフィは断言する。

「アイツ、サンジって名前だったんだ」
「ルフィ!!」

 変わらずのほほんとしている船長に、ナミは言葉を荒げた。
 それを見て、ルフィが言葉を続ける。

「落ち着け、ナミ。お前がそんなんじゃ、オレ達どうしたらいいのかわかんねェぞ」

 ルフィの言葉に、ナミがはっと目を見開いた。
 そう、この船の頭脳は自分。

「お前もだ、トナカイ。言ってくれよ、ちゃんと――――助けるから」

 その言葉に、びくっ、とチョッパーは首を跳ねさせた。
 鋭い目でルフィを睨み付ける。

「何だって?」
「助ける」
「信じられない」
「信じろ」
「だって……なんで助けてくれるんだよ?!ファイを………サンジを、捕まえたかったんだろっ!?オマエら、賞金稼ぎだっ!何でだよ、何をたくらんでる!?」

 チョッパーの叫びに、ルフィは明るく笑った。

「バカだなお前。そんな難しく考えることないんだぞ?」

「助けたいから、助けるんだ」

「それで充分だろ?なぁゾロ?」

 話をふられたゾロは、静かに口を開いた。

「――あの野郎は、逃がさねェ。まだ決着がついてねェ」」
「しししし。ウソップは?」
「おおおお、俺か?ま、ムカつくヤツだけどなァ、ナミも助けて貰ったんだろ?このキャプテンウソップ様の力が必要だろ。お、おめぇらだけじゃ、心配だし、なっ」
「ナミ」
「もちろん………借りは返すわ。それで一発ひっぱたいてやるの」
「ホラな、トナカイ」

「一人より、五人の方がでっかいことが出来るぞ」



+++ +++ +++



「仲間はどこだ」
「……………………知るか」

 耳を塞ぎたくなるような、音。

「ダイヤはどこだ」
「……………………テメェで探しな」

 ぐちゅ、と何かが潰れるような音。

「無理するなよ、思う存分泣き喚け?」
「……………………男を鳴かせて楽しいか?変態」

 びちゃ。ごり。ぱちん。

「もう足の爪、無くなっちまったなぁ………耳でも落とすか?」
「うわ、エグ………この白く見えてんの、骨か?」
「悲鳴一つあげねェ。さっきから何回目だ?気絶」
「もう一回塩水ぶっかけろ」

 じゃばっ。

「仲間はどこだ」
「…………………………」
「オイ、死んだか?」
「イヤ、まだ生きてんだろ………、オイ、答えねェと塩を直に擦り込むぞ?」

「…………いねェよ………仲間なんかな」
「嘘つけ」

 ぶちっ。

「っ………………!!」
「オイお前、今、小指千切れなかったか?」
「うっせぇ、まだ皮一枚つながってんよ、大丈夫だろ」
「さっさと吐かねェと、今度は電流だ」
「…………………………」
「なァ、隠しても無駄なんだよ。会場から逃げたのはお前を含めて五人だ。居場所、知ってるな?女も一人いるだろ」

「オイオイ………そりゃ……冤罪だぜ。俺ァ、マリモやゴムや………ピノキオと関係持った覚えは、ねぇ。
…………レディとなら……大歓迎、だけどなv」

「それだけ喋れりゃ上等だ………感心するぜ。どうせなら、綺麗に死にたいとかおもわねェのか?電流は辛ぇぞ?俺、一回喰らったことあるんだケドよ、もう一遍喰らうくらいなら今すぐ舌噛んで死ねる」
「…………………………」
「体がびくびく痙攣するんだが、そりゃ自分の意志じゃねぇんだ。かくかくかくかく、筋肉が電流で勝手にタップダンスを踊る。二回もやりゃ、大抵のヤツは気ィ狂う。二回も耐えたヤツはいねぇけど。見てる方も辛ェ。悲鳴とか………俺も大概拷問は見慣れてるが、一週間は寝れなかったし飯が食えなかった。ありゃ、見てる方にも拷問だな」
「…………………………」
「死ねねぇぞ?加減してあるから。舌、噛まないように布噛ませるし。ずーーーーーーーーっと、痛ぇんだ。そのお綺麗な顔が、限界まで歪むぞ?悲鳴であごが外れる…………吐けよ、今のうちに。仲間が捕まったら、そっちに訊くから」
「…………………………死ね、クソ野郎」
「――――スゲェ根性だ。感心するよ」

「電気流せ」

「!!!???????????!!!???????!!!!!」


 ベルの屋敷の地下一階にいた者全てが、しばらくの間、耳を塞いだ。




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