Cake & Liar



「俺は、詳しくは知らない………けど、ファイはその男に復讐する事だけが全てなんだって………言ってて……ホントに、それだけのために生きてるかんじで………わざわざ自分のこと、傷つけるような言い方をいつもするんだ、ホントはすごく………優しいのを、俺は知ってるのに、自分は知らないんだ」

 泣きはらした目でチョッパーは自分の両手を見つめた。

「オマエらにこんな話しても仕方ないってわかってるけど………どうしても訊きたいよ。ねぇ…………一番大事な物をちっとも守れないなら」

 俺は何の為に強くなったんだと思う?
 この手は何のためにあるんだと思う?

「もっと、色々なこと、訊きたかった。もっと、色々なこと話したかった。もっと、もっと一緒にいたかったよ…………!」

 テーブルの上に、こらえきれなかった涙がぽつりぽつりと落ちた。
 先程とはうって変わって、静かに泣くチョッパーの頭を、ルフィはぽんぽんと叩く。

「お前、じゃあ追いかけりゃいい」
「…………!」
「まだきっと、追いつけるぞ」



+++ +++ +++


「どういう事だ、ネルガ。あの泥棒とお前は」

 ベルは、呼びつけた海軍大佐を睨み付けた。
 ネルガは無表情に窓の外を見ている。

「ネルガ!」
「……………昔の馴染みだ」

 低い声で呟く。
 その声にベルは一瞬気圧されたが、再び怒鳴る。

「どうなっとるんだ、一体!泥棒の仲間を一人捕まえたが、何もしゃべらん!」
「仲間………?」
「女だ。生意気にも、まだ粘っておる」
「そうか…………」

 ネルガは視線をベルに向けた。
 刺すような鋭い瞳。
 今度こそ、ベルは小さく悲鳴を上げる。
 所詮三流の小心者なのだ。金儲けの才はあるようだが。

「俺の部下をいくらかお前の家に張らせろ。作戦がある」
「ダ、ダイヤは、無事に取り返せるんだろうな!?」
「心配するな」

 ネルガは強引に話を打ち切ると、椅子から立ち上がった。

「ど、何処へ行く!?」
「…………作戦のことは、部下に伝言させる。俺は………奴を待つ」


「きっと、すぐに来る」

 あのぎらついた目をした、少年なら。
 あんなに、生き急いでいたのだから。


   +++ +++ +++


「そんで、何?コレ」
「何って、ケーキ」
「だから何でケーキよ?」
「なんとなく」
「それだけで呼び出したって?オイオイ、ワガママ王子っぷり炸裂だなァ」
「うるせ。この俺が腕によりかけて作ったんだよ。黙って食いやがれ」
「そうだろうなァ………こんなに面倒臭そうなケーキ、見たことねぇもん」
「テメ、それしか感想はねぇのかよ!?弟の方がまだマシな事言うんじゃねぇ!?」
「あ、嘘嘘。美味そうだって」
「当たり前だ、クソ野郎」
「ケーキか………『俺サマ目的遂げます記念』とかじゃねェよな?笑えねぇよ、ソレ」
「お前、性格悪ィ……」
「長い付き合いだ、それくらいわかるぜ」
「…………………」
「お前のペットが通りで泣いてたしな。派手に」
「ペットじゃねぇよ……」
「泣かすなよ」
「泣かしたくねェよ」
「んじゃ泣かすなよ」
「泣かしちまうんだよ」
「泣かすなよ」
「だから………」

「俺をだよ」

「……………」
「泣くぞ。わめくぞ」
「……勝手に泣け」
「冷てェなァ………いただきます」
「おお、食え。俺はもう行くから」
「そっか」
「じゃあ…………」
「ストップ」
「?」
「別れとか言ったら本気で泣くぞ」
「お前そういうキャラだったっけ………まあイイや、わかったよ。それちゃんと全部食えよ?」
「おう」
「またな」
「おう、またな」



「―――――帰って来る気、ホントはねェくせに。『またな』とか平気で嘘つきやがる…………でも、俺に名前を教えるまで、絶対ェ死なせねェぞ?ハル」



   +++ +++ +++


「もったいねぇなぁ」

 いつものように笑いながら、ルフィはチョッパーを見送った。

「側に、こんなにあったかいもんがあんのに………アイツは過去だけ見てるんだな。あんなに強ェのに、後悔ばっかしてんだな。もったいねぇ」

 見る見るうちに遠くなっていくトナカイ。
 必死なその背を、じっと見つめる。
 ルフィは隣に立っているゾロに話しかけた。

「なぁ、そう思うだろ」
「……………全くだ」



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