優美な盗賊。












Graceful Thief 






「ふっふっふ~~~~♪ 見て!ルフィ、ウソップ、一円ハゲ頭!ベルのパーティの招待状、手に入れたわよっ♪」

ナミはご機嫌な様子で、甲板に降り立った。その手には一枚の紙切れ。

「なんだー、ナミ。それが招待状か?」

羊の船首の上からルフィが手を伸ばし、ナミの手から招待状を奪う。

「お、おいゾロ……」
ウソップはゾロの頭に浮かぶ青筋に怯えていた。
「………………」

(あのアマ…………いつか絶対斬る)

「ほらゾロ、しかめっ面してないで!何か労いの言葉はないの?苦労して手に入れてきたのよ?」
「……………それ、どっから持ってきたんだ」

「…………………………」

ナミはしばらく明後日の方向を見つめると、乙女チックに目をキラキラさせた。

「親切な人がくれたのよっ♪」

そんなナミに三人の視線が集中する。

(盗んだんだな…………やっぱり)
(――訊くまでもなかったか)
(腹減ったー)

「何よアンタ達その目はっ!パーティーは明日なんだからねっ!今日手に入らなかったらお終いだったのよっ」

やおらナミはその目をきらりと光らせた。

「さあ、これから大忙しよっ!―――まずは貸し衣装屋にGO!!」

男達はぽかんと口を開けた。全く考えていなかった事態だ。

「――――――返事は?」

きらり、ではなくぎらりとナミの目が光る。

「は、はいっ」
「………了解」
「肉!!」





+++ +++ +++





「ゾロ………アンタの腹巻き取り外し可能だったのね、ちゃんと」
「当たり前だっ!」

真面目に心底驚いたようなナミにゾロは怒鳴りつけた。

「ウソップは問題なし。ルフィ…………麦藁は止めなさいっ!ビーサンもよっ」
「ええー?」
「じゃないとパーティーで肉が食えないわよっ!?」
「それは困る!」

ルフィ、ゾロ、ウソップは、多分生まれて初めて着たに違いない、黒いジャケットにパンツという正装をしていた。ナミとしてはタキシードなんかを着せてみたかったのだが、ゾロの強硬な反対に会い、断念。

「それにしても…………」

ナミはチラリ、とゾロを見る。

「わかっちゃいたけど…………アンタ、どこかの組の若頭になってるわよ」
「うるせ」

その凶悪に悪い目つきが問題なのだろうか。しかし、黒い服に髪の毛の碧色が映えて、しかも体格が良いので意外に…………

(………かっこいい、なんて言ってやらないわよーだ)

ナミ自身は、黄色い、肩と背中が大きく開いたセクシーなイブニングドレスをまとっていた。彼女の見事なプロポーションとあいまって、かなり魅力的だ。

(…………ヤツなら目ェ回すかもな)

まあ、ゾロにとっては意味のない魅力だが。
パーティーは、午後三時からの予定だった。ナミは腕を組んで指示する。

「さあ!パーティーの受付開始は、もう始まるわよっ!気合いを入れて!
ルフィは目的を忘れないこと!
ゾロはガンを飛ばさないこと!
ウソップはおどおどびくびくしないこと!」

「さあ、Cheeky Jesusを捕まえるわよっ!」





*** *** *** 





「お誕生日おめでとうございます、Mrベル」
「ああ、ありがとう」

「―――それにしても素晴らしいダイヤですわね、まるで海の結晶のよう……」
「ははは、そうでしょう。私としてもコレは気に入っているんですよ」

「Mr、お招きいただいてありがとうございます」
「おお、ようこそお越しくださいました。どうぞ、ゆっくりと楽しんでいってください」

ベル・ゴーディーは広いパーティー会場の一番奥、一段高くなった所に座っていた。
会話だけ見れば普通のようだが、招待客はベルの下に立ったままで、ベルは椅子から立ち上がろうともしない。ベルの周りには何人ものガードマンが立ち並び、まるで王者の態度だった。

ベルの身体は豪華な宝石に取り巻かれていたが、その中でも左手の親指にはまっている指輪は見事だった。
大粒のブルーダイヤが、様々な面でカットされ、それが複雑な輝きを産んでいる。
先程招待客が言ったことは的を得ている。

そのダイヤは、まるで海の結晶のようだった。






「ふあああ~~」

黒いスーツの男が、会場の従業員用通路を歩いている。

「ああ、眠ィなぁ…………」

ぱちぱちと目を瞬かせながら、男はトイレの前を通りかかった。

「っ!?」

その瞬間、後ろから伸びてきた手に、男はトイレの中に引き吊り込まれた。






「ふ、ふふ………………ゾロ、コレは一体どういうコトなのかしらぁ?」
「……………………」

ナミは俯いて、肩を震わせている。

「アンタ、言ったわよねえ…………見分けるのは簡単だって」
「…………あァ」

「それじゃあ、ちょっと訊いてもいいかしらっ!この状態でっ」

ナミはがばっ、と顔をあげるとゾロに掴みかかった。

「どうやって見分けんのよっ!」
「む…………………」

パーティー会場にまんまと潜り込んだナミ達だったのだが。
入った途端に彼等の目は点になった。

「なんっでコイツら全員サングラスかけてんのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

ちなみに、出席者も、ルフィ達も、ベル本人でさえも顔を隠している。
そう…………ベルの誕生日パーティーは、仮面パーティーだったのである。





(なにやってんだアイツらは…………)

キディは苦笑しながらルフィ一行を眺めていた。
いくら仮面をしていようが、あの騒がしさにナミさんの美しさ、マリモの柄の悪さは隠せまい。

(俺を捕まえに来たんだろうけどなァ……………)

この前のアドバイスは全く参考になっていないようだ。どうせまた、計画も何も立てていないのだろう。

(せいぜい頑張ってくれよ?)

キディはサングラスの奧で笑った。





「ま、まあ落ち着けよ、ナミ」

ウソップが勇気を出して、ナミに話しかける。

「ゾロだってまさかこういう事態は予想してなかったろうし………それより、これからどうするのか考えようぜ?」
「そうね………ここでゴムを絞ってても、なんの解決にもならないわね………」
「そうだぞ、痛ぇぞナミ。肉喰いに行かせろ」

ナミは、ルフィの頬を引っ張ってねじりあげていた指を外した。

「ほら。でも肉を食べに行くのはダメ」
「えーー?なんでだよーーーー!」
「アンタは肉以外の物に目がいかなくなるから!ウソップに取ってきて貰いなさい!」

ルフィはぶーぶー文句を言いながら、仕方なくウソップに頼んだ。

「肉ーーーーーーー!!」
「わ、わかった!俺を喰うなルフィ!」
「しょうがないわね………ベルを見張っておきましょう」
「あのオッサン、スゲェ光ってるなー」

ルフィが感心したように言う。

「ええ、あのまま持って帰りたいくらいね」
「船には乗せねぇぞ、オッサン」
「わかってるわよ、途中でちゃんとオッサンは捨てていくわ」
「オマエら…………目的覚えてるか………?」





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