優美な盗賊。












Graceful Thief 







パーティーに潜り込む方法はナミに任せるということで、暇になったゾロはシトロスの港を歩いていた。
目的は、鍛冶屋を探すこと。だが…………

「ここは何処だ」

一人で出歩いたゾロが迷子にならないはずはないわけで。

「………」

ゾロはいつの間にか大通りを外れて、寂しい裏通りに迷い込んでいた。シトロスのメインストリートとは違い、裏通りは人通りも少なく、ゾロは人に連れていってもらうという最終手段(訊いたぐらいではたどりつけない)も使えなくなった。
勘で選んだ角を曲がる。するとゾロの目に見覚えのある物が飛び込んできた。

「あん?」


ゾロの膝上くらいのところを移動している、ピンク色の帽子。


「ありゃあ………」

ゾロは三歩でそれに追いつくと、後ろから声をかけた。

「おい」
「うひゃあ!」

帽子は飛び上がると、ゾロを振り返った。

「………っ?!お前はっ」

途端に逃げようとするチョッパーを、ゾロは片手でつまみ上げる。

「お前、ヤツの仲間だったよなぁ」

顔を近づけて、尋ねる。

「い、言わないぞ!ファイの居場所なんて言わないぞ!」

チョッパーは涙目でぶんぶん首を振る。

「いや、そうじゃない」
「じゃ、じゃあなんだよっ!やるかっ!ファイの敵は俺の敵なんだからな!」
「だから違ぇよ」

ゾロはぼりぼりと頭をかいた。この毛玉は、やけにキディに懐いているようだが、ゾロはキディの居場所よりも知りたいことがあった。


「道、教えろ」


「へ………?」
「ヤツの居場所なんかいいから、鍛冶屋が何処にあるか教えろ」
「え……………ファ、ファイを捕まえるんじゃないのか?」
「ああそりゃ捕まえるけどよ」
「や、やっぱり!」

じたばたと暴れ出すチョッパー。

「放せよっオイ!変形するぞっ」
「だから話を聞けっ」

ゾロは手を放した。すとんと落下したチョッパーは、地面に激しく激突する。

「あ…………悪ィ」
「もうっ!なんなんだお前はっ!」
「いやだからな………あのヤロウは今度必ず捕まえるが、取り合えずこのまんまじゃ船にも帰れねぇんだ。だから道、教えろ」

チョッパーはきょとんとゾロを見上げる。
ちょっと混乱状態で、どうしたらいいのかわからなかったチョッパーは、取り合えず思ったことを答える。


「ゴメン………俺も迷子なんだ。この港、初めてだから」


こうやって、無意味に迷子は増殖した。





+++ +++ +++





「全く……あのクソトナカイ、使いも満足に出来ねぇのか。何処まで買い出しに行ったんだ?」

キディはチョッパーを探しに外に出ていた。黒いスーツにサングラスをかけて、髪の色もそのままにしてある。
ふと、何気なく視線をやった先に、緑色の頭。

「お、マリモ発見」

キディはのんきに呟いた。十メートルぐらい先に、ゾロが歩いていた。しかしこの人込みの中では、気付かれたところで問題ない。もっとも、逃げる気はなかったが。

「ちぇ、ナミさんと一緒じゃねぇのかよ…………ってアレはうちのトナカイじゃねぇか!」

よく見れば、ゾロは茶色い毛玉をぶら下げている。まるで猟師が獲物をぶら下げるように。

「あのヤロウ、いたいけな小動物に何してやがる………!」

キディは煙草を噛み潰すと、人混みからひらりと飛び上がった。





「コルァァァァァァァァ!!このクソ誘拐犯っ!」

ごきぃっ!

ゾロの首が九十度折れ曲がる。
後頭部にキディの膝をくらい、ゾロはなすすべもなく転倒した。

「な、なんだ!?」
「オイコラ、三刀流!テメェは人質取らなきゃ動けねぇのかよクソオクビョウモノ!」
「テメェ…………」

全く訳は解らないが、臆病者呼ばわりされたことだけははっきりと耳に入り、ゾロは額に青筋を立てた。
立ち上がって刀を抜く。人混みが、ざっと二つに割れた。

「何が何だかわからねぇが………テメェはどっから湧いて出てきた泥棒野郎」
「湧いて出てくんのはテメェの専売特許だろ、カビ頭。すっとぼけてんじゃねぇよチョッパー返しやがれ」

キディはチョッパーを指さす。

「しらねぇよ連れて行きたきゃ勝手にしやがれ!――だがその前にテメェのそのイカれた首を置いてってもらう」

ゾロは据わった目つきでキディを睨んだ。

「ああん?やってみろよ………そのへっぽこ三刀流で出来るもんならな!」
「上等だ。死んで後悔すんな」
「テメェがな」

二人の間の空気がピン、と張りつめる。
一触即発。


ごきんっ


「お前、やっぱりファイを捕まえる気だったんだなっ!!」
「チョ、チョッパー?」

チョッパーはゾロへと振り下ろした木材(どうやら側の屋台のもの)を下に置いた。
後ろからの急襲により(しかもまた後頭部へ)ゾロはまたもや地面とキスしている。

「え………オイ」
「ファイ、逃げよう!」

訳のわからないキディの手を引っ張り、チョッパーは人混みの中に逃げ出した。

「チョッパー、お前意外と容赦なかったんだな……アイツ死んでねぇかな」


「―――ま、いいか。マリモは日光あてときゃなんとかなんだろ」




ちなみに迷子仲間に裏切られたゾロは、その二分後くらいに復活し、誓いを新たにした。
『あの野郎共絶対ぶっ殺す』



「ゾロー、お前どうしたんだー?後ろ頭、ちょっとハゲて血ィ出てんぞ」
「ルフィ……悪いこといわねぇから、今はそっとしといてやれ」
「……………バッカじゃないの、アンタ。ちゃんと捕まえなさいよね」





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