優美な盗賊。






Graceful Thief 


















    アルバイト急募! ウエイター&ウエイトレス

  仕事内容 : チャトルロックシトロス貿易会社社長の誕生パーティーでの接客
   仕事時間 : ×月××日~×月××日(詳細は面接で)
   応募資格 : 18歳以上で接客経験有る人。
   時給    : 2000~3000ベリー(要相談)

                  制服は支給されます。
                  希望者は×月×日午後3:00にチャトルロックシトロス貿易会社
                  本社のロビーへ。面接があります。時間厳守。

                                   チャトルロックシトロス貿易会社







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「急げチョッパー!時間がねぇ!」
「う、うん…………わかったけど、でもわかんないよ!何があったの?!」

シトロスのメインストリートをトナカイで爆走する金髪の男は、当然ながらかなり目立っていた。人で込み合っている道を、チョッパーは驚異的な反射神経ですり抜けていく。

「ん、いや大したことじゃねぇんだけどさ。アイツらからこの前お宝盗んだんだ。ソレでちょっとな………」
「――ファイ、堅気からは盗まないんじゃなかったの?」
「…………さっき言ったろ、奴らは『海賊狩り』さ」

その言葉に含まれる毒。

「……………………ファイ」
「それと、アジッドから裏をとったぜ。やっぱり、ここの海軍支部にヤツはいる………!」

キディのチョッパーの角を掴む力がかすかに強くなった。多分無意識だから、本人は気付いていないだろう。

「ファイ………」
「ご丁寧にも『海軍大佐』だとよ……ハハ」

キディは皮肉げに唇を歪めた。整ってはいたが、余計に凄惨な笑いだった。チョッパーの瞳が悲しげに曇る。

(いつまで続けるんだよ、ファイ……………)

キディは、気を取り直したようにチョッパーの頭をぽんぽんと撫でた。

「ま、話は後だ!急げチョッパー!!」
「う、うん!」





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「……………見事に逃げられたなァ」
「うるせェ!」
「うるさい!」

エースの呟きにゾロとナミが同時に答える。

「そうカッカすんなよ、アイツは泥棒だ………海賊じゃない。逃げるのはお手のモンなんだ。まあ、ちょっとナメられスギかも知れねぇけどな?オマエらは」
「う…………確かに」

ナミは顎に手を当てて考え込む。

「ヤツは怪盗なのよね………勢いだけじゃ捕まえられないか……」
「何か考えがあるのか?ナミ」

ウソップが問う。

「ええ……………手錠とか、網とか、銛とか………必要ね」
「イヤ、そんな直接的な…………」

思わず一歩引くエース。

(銛って…………串刺しか?やっぱ串刺しなのか!?)

魔女化しっぱなしのナミにウソップが青くなっている。
ゾロは破壊された『山猫男爵亭』の正面扉の向こうを睨み据えていた。キディがまだそこにいるかのように。

(………気にくわねぇ。絶対ェ捕まえてやるぞあのヤロウ)

ゾロはぎゅっと刀を握った。

「オイ、オマエら肉喰わねぇのかー?俺全部喰っちまうぞ?」

ゾロは真剣な顔でルフィに向き直る。エースが面白そうにそれを見ていた。
ナミは難しげに何事か考え込み、ウソップは青くなったままだ。

「―――ルフィ!!」
「なんだ、ゾロ」
「―――――Cheeky Jesusを捕まえる!絶対にだ!!それまで俺は島からでねェ!」
「ああ、いいぞ」

あっさりとルフィが答える。にししと笑って、

「ゾロ、今ならオマエ『楽しい』だろ?」


「オマエ、いっつも本気じゃなかったからなー………今、楽しいんだろ?」


本気になれて。

「ルフィ…………」

ゾロは、肉の詰め過ぎでハムスター化しているゴム船長をまじまじと見つめた。
黒い瞳が真っ直ぐゾロを見つめている。

「お前が好きなように、していいんだ」
「ああ………サンキュ、『キャプテン』」





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「ウエイトレスとウエイター、どっちになるんだ?」
「チョッパー…………テメェ、死ぬか?」

キディはシトロスの北西に隠れ家を一つ持っていた。ちなみに、ナミの(本当はゴーイングメリー号の、というべきだがそんなコトには誰も気付いていない)宝もそこに置いてある。
チョッパーは調合した黒い染め粉を手に取った。

「目に入らないように………上を向いてね」
「ああもう、間に合うか…………?クソ」

チョッパーはキディの金髪を慎重に黒く染めていく。綺麗な髪がなるべく傷まないように、いつもとても気を使っているが、本人は全く頓着していないようだ。
その、綺麗な髪が問題なのである。目立ちすぎるのだ。

だから仕事の時にはいつもチョッパーが彼の変装のサポートをしていた。髪を染めるのもそうだが、顔の輪郭を変えたり、体型を変えたり(だいたい、顔が小さくて手足が長すぎる)色々だ。チョッパーの開発した肌色のゴムは見た目も手触りも、皮膚そっくりの優れ物である。そのおかげで、その気になればキディは黒人にすら変装できた。

しかし、チョッパーでも誤魔化せない物はある。それがキディの目だった。隠す以外に方法がない、こんな綺麗な瞳は。誰だって、一回見たら忘れられない……。

「チョッパー、手が止まってんぞ」
「ゴ、ゴメン…………でもウエイトレスってのはいい手だと思うぞ。そんな変装が出来るのは、きっとオマエくらいだし、絶対ばれないから」
「却下!」
「…………………きっと似合うのにな」

口の中でもごもごと呟いてから、チョッパーは慌ててじたばたと誤魔化した。

「なに踊ってんだ、チョッパー!後十分で終わらせるぞっ」
「う、うん…………」


「絶対に成功させる………最後の一つなんだ」


後一つで。

ヤツを、殺せる。


キディはうつむいて呟いた。

「……………オールブルー……」





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