金髪猫。












Blond Cat





「さ、抵抗は無駄よ……………ワタシはやるといったらホントにヤルわよ?」

咲き誇るように艶やかに笑うナミの後ろで、ウソップとゾロは、ぶんぶんと光速で首と手を振った。

「ハル………ナミちゃんは本気みたいだ。諦めろ」

エースはテーブルから立ち上がると、キディに近づいて大仰に両手を広げた。

「出来ることなら俺だって、公衆の面前で弟の裸踊りは見たくないもんだ………ハル、素直に吐け」
「エース………テメ、どっちの味方なんだよ」

憮然とするキディ。

「だーってオマエ、つれねぇんだもん。用がなかったら連絡もとってこねぇし。用が済んだらさっさと消えちまうし。俺ァ寂しくて泣いちまうね」
「野郎の涙は嫌がらせにしかなんねェぜ?」
「ホントにつれないねぇ…………」

エースはキディの縛り付けられている椅子に手をつく。にやけた笑みを消し去り、真剣な表情でキディの耳元にささやく。いわゆる、低いセクシーボイスで。

「大体いっつも誘ってるじゃねぇか……怪盗なんか止めて、俺と一緒に海に出ようぜ?」

エースはキディのほっそりした顎に指をかけ、持ち上げる。

「エース………………」

キディはエースをじっと見つめる。エースは、その黒い瞳をキディから外さない。

「「「そこで妙な会話をするなぁーーーーーーーー!!」」」

ゾロ、ナミ、ウソップはイヤな冷や汗をかいた。

「―――オマエら、からかいがいがあるなァ……冗談だって」

ころ、と表情を通常に戻し、エースが苦笑する。

「エース、オマエ台詞が寒すぎるぞ………でもまあ確かに、からかうと面白れェな。オイマリモ、青くなってんじゃねぇよ気色悪ィ………ナミさん、ムキになっちゃってカワイイv」

「「「………………テメェらがやると洒落になら(ねぇんだ)(ないの)よォ!!!」」」





+++ +++ +++





「ま、まあ気を取り直して……………、さあ、お宝の在処を…………」

怒鳴りすぎで涸れた喉をさすりながら、再々度ナミがキディに詰め寄った。

「……………その前につかぬ事をお訊きしますが、ナミさん」
「な、何よ?」

急に真剣な表情になったキディに、ナミはドキリとする。
キディはナミをじっと見つめて、

「今、何時だかわかりますか?」
「そんなこと言ってゴマかそうったって……」
「お願いします」
「……うう………に、2時過ぎだけど?」

キディの真摯な表情に押され、ナミは腕時計を見て時間を教えた。

「そうですか――それじゃ、残念ですが俺はそろそろおいとましないと」
「はぁ?」

ナミが素っ頓狂な声を上げる。
ウソップが長い鼻を擦りながら、

「オイ、オマエはこれから俺らに引きずられて海軍の支部に行くんだぞ?このキャプテンウソップ様の輝かしい栄光の記録の一ページの片隅のはじっこくらいに名前が連なるんだ!けっこう名誉なことだぞぉ」
「ちょっと退け、ウソップ」

ゾロはウソップを鬼徹で小突いて黙らせる。いたって余裕綽々な様子のキディの前に立ち、その顔を見下ろした。

「テメェ、この状況で逃げられると思ってるのか?」
「邪魔だクソハラマッキー。俺様の視界を汚すんじゃねェ、ナミさんが見えねぇじゃねぇか。わかってねぇな、美形に不可能はねェんだぜ?腐れカビ頭を出し抜くことなんざ三分クッキングより簡単だぜ。なんならBGMもつけてやろうか?キューピーの」
「…………イイ度胸だ」

ゾロの目が鋭くなる。

「そういやテメェとはまだ決着つけてなかったよな………ソレほどいてやるから表に出ろ。俺に勝てたら逃がしてやるぜ?」

犬歯をむき出しにして笑う。

「ちょっとゾロ何勝手なコト」

食ってかかろうとしたナミの口を、ウソップが慌てて塞ぐ。

(ちょっとなによウソップ……………!)
(ヤベェぞナミ、ゾロは本気っぽい……………)
(だからなんなのよワタシのお宝が)

「フン………俺ァ、野郎に割く時間は持ってねぇんだけどなァ……テメェをボコボコにすんのはかなり気持ちよさそうだ。けどよ?もうタイムアップなんだわ。もう二時過ぎてんだろ?だったら………」

かたん…………

まるで図ったように、『山猫男爵亭』のドアが開く。
ひょこん、とピンクの帽子が覗いた。

「……………………ファイ、いる?」
「ホラな、お迎えだ」 





+++ +++ +++





「遅ぇぜチョッパー」
「ゴ、ゴメン………でも場所がわからなくて……………」

そこまで言うと、チョッパーはきょとんとキディを見た。

「ファイ…………何やってるの?その人達は?」
「んー?新手の緊縛プレイだよ。もう飽きたから止めるけどな」

というが早いか、キディはさっと椅子から立ち上がった。なんの支障もなく。

「「「!!!」」」

ひらひらと、テーブルクロスの破片が舞い散る。エースがヒュウと口笛を吹いた。

「クソハラマッキー、いいことを教えてやるよ………普通相手を完璧に拘束したかったらきちんと身体検査をするべきだ。刃物くらい何処にだって隠せるんだぜ?相手の手の動きが見えない状態には絶対にするべきじゃない。沢山しばりゃイイってもんじゃねぇ………そして一番重要なのは」

キディはぐるりと周りの顔ぶれを見回して、ナミにぱちりとウインクした。

「相手に余計な時間を与えないってコトだ。無駄なおしゃべりをする前に、やることがあるだろ?相手のペースに持ち込まれたら終わりだな。………………勉強になりましたかね、レディ?」
「ファ、ファイ…………緊縛プレイって?」
「忘れろチョッパー。それより”獣型”に変形しろ」
「え、え……………!?うん」

思わずチョッパーは言われたとおり変形する。

「「「「????」」」」

いきなり登場したしゃべるぬいぐるみ、鮮やかに拘束から脱したキディ、ぬいぐるみがトナカイに変身………展開の早さに一同はついていけず、ぽかんと口を開けたまま棒立ちになっている。
その隙に、キディはチョッパーに飛び乗った。

「んじゃ、そういうコトでv」
「…………っちょ、待てっ」

一番早く我に返ったゾロは、キディに掴みかかろうとする。が、チョッパーはひらりとかわした。

「ファイ、誰なのこの人達」
「ん、賞金稼ぎだよ」
「しょ、賞金稼ぎ!?ファイ、逃げなきゃ!!!―――”脚力強化”!!」

どかんっ!

チョッパーは入ってきたばかりの『山猫男爵亭』の扉を蹴破った。

「テメ、逃げるのかっ!!」
「ま、待ちなさいよ!」
「うわわわわっ?」
「ハル、またな?」
「肉、おかわり!!」



「――おい、クソハラマッキー。悪ィが決着はまた今度な?俺を捕まえたかったら、もちっと修行が必要だ………じゃあな、クソ野郎共。それに麗しいレディ」





BACK    GRACEFL THIEF NOVEL