クルガンは小食というわけではない。

ただ、クルガンと、物を食べる、というイメージは、どうも併せては定着しない。その原因の一つは、クルガンが物を食べるところに他者があまり居合わせないことだろう。たとえば、クルガンが食堂を利用する時間帯及び回数は不規則かつ不定期だ。食堂が空いているときのほうが効率がいい、というのは単に頭で考えたことで、実際のところ、定期的に食事を取る必要がないため好きにしているだけのことである。一日二日くらいの断食は平気でし、別に苦とも思わない。

──現に今も、クルガンは丸一日以上食事を放っておいている。その癖通常訓練に耐えられるのであるから、クルガンの体は非常に燃費が良くできていた。

「だから顔色悪ぃんじゃないのか?」

無関係である。

クルガンは貧血のひとつも起こしたことがないし(怪我による大量失血の場合は除く)、病気にもろくにかからず、健康体を維持している。よって、クルガンの顔色が死者に近いとしても生来そういうものなのであり、目の前でぺちゃくちゃ喋っている男のように、常に頭に血を上らせている性質にはなれないということだ。

「……他に誰か招いているのですか」

二人しか座っていないはずなのだが、机の上には、宴会でもするのかというくらいの食物が広げられていた。茹でた玉葱がこぼれ落ちそうなくらいに盛られた深皿、焼いたジャガイモが山と積まれた皿、胡椒入りのビスケット、胡桃入りのビスケット、塩漬けの鱈、ソーセージ、トウモロコシのスープ、インゲン豆、キノコ類、チシャの葉の山、布に包んだチーズの塊、冷えた水、酢と油と塩、机の隣には樽ごとのエール──隅のほうには小さな林檎のかごまで置いてある。

「いや、ちょっと奮発しただけ。俺の分」
「…………」
「アンタも、一人前くらいは食べろよ」

常のことは知らないが、仮に常にこの調子で城下で食事を続けているというのなら、シードの奉給は全て食費に消えることになる上、借金も必要だろう。少なくとも、城の兵士用の食堂では量だけは無制限に食べられるから、シードの天職はやはり軍人だ。

クルガンがそんなことを考えている間にも、シードは口を大きく開けて次から次へと食べ物を噛み砕いていた。いかにも旺盛な生命力を感じさせる食べ方は、彼が「捕食する」という行為の上のほうにいる動物だということを示している。

クルガンは、他人と皿を共有することを好まないので、一番手前の皿を引き寄せ、おとなしくそれだけを食べていた。

「アンタ、インゲン豆がそんなに好きか?」
「────」
「……もしかして、背が伸びたりするのか?」

だから、無関係である。

クルガンは伸びてきたフォークから自分の皿をさっさと退避させた。ついでに、林檎のかごも己のものとすることに決めた。