褐色を煮詰め、黒に近づけたような色の液体。
焦げ臭いにおいもする。
しかし、周囲の人間が文句をつけないところをみると、これはこういった飲み物なのだろう。クルガンはカップを持ち上げると、水代わりに飲んだ。予想通り、苦い液体だった。
「お前な……珈琲ってのは、そういう勿体無い飲み方するもんじゃないだろ。というか、熱かっただろう今の」
「別に」
『そういう飲み方をするものではない』という情報だけ拾い上げ、クルガンは周囲を観察した。隣に座るヴィネルは、少し飲んではカップに湯を継ぎ足して量を戻す、という面倒臭そうな方法を採っていたが、大多数はゆっくりと、一口、二口、と含んでいる。
どうやら珈琲とは、飲み物のなかでも煙草のような嗜好品の類に近いらしい、とクルガンは検討をつけた。味やら匂いやらを楽しむものなのだろう。
「味がわからないんだったら砂糖水でも飲んでりゃいいのに」
「────」
わからない、というのではない。
ただ、美味い、とか、不味い、という選択ができないだけだ。食べられるものであれば、それが「美味い」というのではないか?
ふ、と視界の端に、『塩の塊』を珈琲の中に入れて溶かしている者を見つけた。複数人見つけたので、異常なやり方というわけでもないのだろう。クルガンも、カップの脇に付いていた『塩の欠片』を取り上げると珈琲の中に入れた。
匙でかき回し、再び口を付ける。
「…………」
今度は、水のように飲む、ということはしなかった。
クルガンは静かにカップを置くと、ポットを取って湯を注ぎ足した。