負け犬。



 ブチブチと嫌な音がした。
 血管と肉の筋が切れる音。

 サンジの手のひらの穴が、指の股までびりっと裂けた。

 吹き出した血がヴィクトの頬にかかる。
 間抜けにぱかっと開いた口にも、びしゃびしゃ血が飛び込んだ。

 力任せに引き裂いた、その手が肉の塊になり果てる。
 半分裂けたその塊を、サンジはジャケットに突っ込み、銃を引っぱり出した。

 ぷっ、と唾の混じった血を吐く。
 ヴィクトの目を狙って。

 人差し指がうまく動かない。むしろ人差し指などもう付いていないのかも知れなかった。引き金が引けない。
 がっ、とヴィクトの指が手首を掴んだ。
 強い握力。骨が鳴る。
 舌打ちして、ヴィクトの首を引き寄せた。

 力任せに叩きつける。

 ぱぎゅっ!!

 変にくぐもった音がする。
 暴発した銃はヴィクトの顔面とサンジの手を道連れに、破片をまき散らした。
 花火のように血と肉片が舞い散る。
 赤い髪の毛も、数本散らばった。

 そんなところまで、綺麗。
 やっぱり俺とは違うな。

「あばよ」

 手首の先は一緒に吹っ飛んだのだろうか。感覚がない。
 ヴィクトの持っていたナイフが、肩に刺さっている。

 びちっ。びちびちっ。

 足の筋が切れたのかも知れない。
 ナイフを抜いている暇はない。
 足を無理矢理壁から引き剥がして、サンジは襲いかかってくる剣をかわした。皮膚が破ける嫌な音。あまりの惨状にだろうか、男の一人が目を背けたのが見えた。
 まだ手首を掴んだままのヴィクト。振り払ったくらいでは落ちない。
 その手を引き剥がすために、サンジはヴィクトの指に歯を立て、肉を食いちぎった。

 そのままがりごりと咀嚼してやった。














 ぷっ、と指の欠片を口から吐き出す。
 サンジは横たわったまま天を見上げた。

「良かったな、お前は勝ったままだよ」

 どうだ。見ろよ。
 俺は生き汚ねぇだろう。
 どうぞ、あの世から見下ろして勝ち誇っとけよ。

 何をしてでも生き延びる、無様で見苦しい負け犬を。

 見込んだのがそもそも間違いなんだ。
 俺の命は惚れた相手にしかやらねぇ。


 聞きたくねぇ声が降ってきた。


「何てみっともねぇ」
「カエルの標本みたいだぜ」


 半分潰れた目で笑ってやった。


「どォよ俺様」





「クソカッコイイだろ?」







                                            負け犬:END