BERMOUTH 




 サンジはしかめ面をして、彼のまわりを取り囲む男達を見つめた。
 彼等は一様に剣や銃などの武器を持ち、とても好意的とは言えない雰囲気でニヤニヤとサンジを眺めている。

「…………ムサ苦しい」

 取り合えず、自分の真正面の一人に正直な感想を述べる。
 男達の顔に青筋がピキッと浮いた。

「………テメェ……この状況がわかってんのか?」
「地獄だな」

 その言葉に、男達の青筋が消える。

「わかってんじゃねぇか。そうだ、お前はこれから地獄へ逝くんだよ」

 サンジの目に見える範囲の男達が、揃って下卑た笑いを浮かべた。
 口々に言葉を発する。

「お前、待ち合わせしてんだろ?」
「でも待つ必要はねぇぜ」
「待ち合わせ場所はあの世に変更になったからなァ」
「だからお前もすぐ送ってやるよ」

 サンジの眉が片方上がる。

「―――勘違いすんなクソボケが。視界に男しかいねぇ状況なんて、地獄以外の何物でもねェっつってんだ。しゃべんな。息すんな。目に入るな。とにかく可及的速やかに、消えろ」

 その台詞に、賞金稼ぎか海賊か、とにかくろくなものではないその集団が湧いた。
 先頭の男がサンジに向かって剣を突きつける。

「テメェ、この状況がちゃんとわかってんのか?」
「醜悪雑魚男地獄。だから環境改善が必要なんだよ。ホラ、俺って繊細だからな。クズと一緒の空間にいたくないワケ」

 険悪な空気がその場を支配する。
 剣を構えた男は額に血管を浮き上がらせ、余裕ぶろうとして失敗しつつ言葉を返した。

「へえ?ずいぶん余裕みたいだが………いつまでそんなこと言ってられるか見物だぜ。俺らはたった今、テメェの仲間のロロノア・ゾロを倒してきたところなんだ。つまんねぇ反応の無愛想な男だったがな、全員で銃をぶっ放して終わり。いくら剣技なんか磨いても、意味なかったって事だな」

 サンジは無関心に、向こうが見えないほどに密集している男達を眺める。取り合えず、百や二百ではきかなそうだ。
 その冷静さに、男は焦れた。

「なんとか言えよ!」
「ああ?」
「テメェの仲間が死んだんだぜ!?」
「知るかよ」

 サンジの目が細められた。
 それが危険な兆候であるという事を知っているのは、GM号のクルーだけだろう。
 もちろん、男達はそれを知らなかった。しかし、本能ゆえか一斉に一歩下がった。

「あのなァキミタチ」
「夢を見んのもイーんデスけどォ?見るだけタダだし?」

 そして、サンジが男相手に比較的丁寧な言葉を使うときは、かなりキているということも、彼等は知らない。

「寝惚けんのはタイガイにしやがってクダサイ?」
「クソ剣士を殺ったって?そりゃ手間が省けるんだケド」

「ホントなら、感謝感激してお礼のキスくらい送ってしかるベキなんだケド?」


「けどな」




「―――俺がどーにかしようとしてどーにも出来ねェモンを、テメェらになんとかされてたまるか」



 サンジはゆらりと立ち上がった。
 人差し指をピッと立てる。


「ついでにとっても不幸なニュースを一つ」
「侮辱、っつーボキャブラリ、テメェらの頭ん中にちゃんと入ってマスか?」

 ママに教えて貰いましたか?
 いくらなんでも、アレがそこまで軽視されてるとはね。ビックリですね。

「今度からきっちり叩き込んできてクダサイね」


「―――許す気、ナイんでv」


 アイツが、俺以外に殺されるわきゃネェだろが。
 除草剤まいたってしぶとく生き残るぜきっと。




 サンジは、ふわりと笑って煙草に火を点けた。


「Are you ready?」




                    MARTINI  NOVEL