俺はつまりアレだ、どっちかっつーと生き汚ェ方で
それはまあどっちかっつーと悲惨なんじゃねェかって幼少期の体験にも起因してて
でもだからって
飢える事への過剰な恐怖心とか(そりゃまあちょっとはあるような気もしなくはないと言わなきゃ嘘になるかも知れないかも知れないかも知れないけどソレでおたついたりは絶対ェしたくない)
いつまでも暗くうじうじ思い返したりとか
嵐の夜に寝られなかったりとか逆に悪夢を見たりとか
何か他の奴らの同情引きそうなそんな感じ
そんなのは本気でごめんだから

だからまあ、蹴るわけだ。

それは敵だとか敵だとかたまに岩とか建造物とか、気に食わねェチンピラだとか、俺にはどうしようもねェ問題についての悩みだとか
一番多いのは多分マリモだけどいいよアレは俺の靴拭きマットだからカウントしねェでも

蹴って蹴って蹴りまくって何でも粉砕する
一回で駄目だったら百万回蹴る

死んでも諦めたりするか

イヤ、今軽く言ったように聞こえるかも知れねェけど
俺は覚悟を決めた上で滅茶苦茶真剣にそう思ってるつもりだ
だって俺、死んでも、なんて軽く言えねェもん

俺は一度スゲェ死に近ェ所にいった事があるから
ぶっちゃけ死ぬのが死ぬほど怖い

怖い
怖い
怖かった


でも














   
BSINTHE 













オールブルーも見つけた
ジジイに手紙も書いた
俺の夢とか義理とかやるべき事とかは全て果たされた気がするワケで

今、俺の目の前に広がるのは一面の緑色

「うわ」

海みてぇに広い
こんなに広い草原、見た事ねぇ

深い
大きい
圧倒される

綺麗だなんていえないくらい綺麗
この緑の海

崖の淵から見下ろす世界は広く、地平線なんて俺は初めて見たかも知れない
水平線なら飽きるほど見たけどな

こんなに綺麗なものの前で、俺は立ち尽くすしかない

どんなレディの前に立ったってきっとこんな気持ちにはならない
だって動けない
目を逸らしたくない
呼吸すら俺は躊躇ってる

辛かったら抵抗出来るし
気に入らなかったら粉砕出来るけど



「あ」

綺麗だ。

「あ」

美しい。

「あ」


こりゃあ蹴れねェよ。



そう思った。
あ、今、死んでもいいなって。




オールブルーも見つけた
ジジイに手紙も書いた
俺の夢とか義理とかやるべき事とかは全て果たされた気がするワケで



この崖を蹴って

     この空を飛んで

          この緑の海に墜落



それって本当に満ち足りてるな
足掻く事なんか何も無い







乱暴に手首を掴まれて俺は反射的に振り返った。

「この阿呆が」

クソ汚ェ緑色だった。
ぶっちゃけ目が汚れた。一瞬で汚れた。空気すら汚染された。

ふざけんな人がせっかく良い気持ちでいたってのに俺の機嫌を急降下させずにはいられねェんだからクソ野郎は気遣って一キロ以上離れとけっつったろ、取り合えず死ね一秒で死ねそんで二秒で土に還って三秒後には自分で墓立てろ蹴り砕いてやっから。

「足元くらい見ろ馬鹿眉毛。死にてぇのか」

煩ェよ俺はテメェと違って注意力は十分あんだよちゃんと見てるに決まってんだろいいからこの手を離せ、今なら延髄折るくらいで勘弁してやる
たとえナミさんに引き止められたって俺は行く

死が怖くないのなんて初めてなんだ
俺は人生の絶頂で
足りないものは何もなくて
空は青くて
世界は広くて
周りの奴らは幸せで

これ以上なんて何も望めない


ああ、僕の女神、なんて甘美な毒だ!








「じゃあ死ね」


クソ野郎は呆れた風で俺の手を離すと、馬鹿を見る目つきで言った。


「今死ね」
「すぐ死ね」
「ここで死ね」
「俺の前で死ね」





…………。






「どうした、馬鹿は死んだってちゃんと言っといてやるから安心して死ね」

煩ェ。誰がテメェの言う事なんざ聞くか。












Absinthe アブシンス
通称「アブサン」。名前は材料となるニガヨモギの
学名 Artemisiaabsinthumから。この薬草が人を
狂わせ、死を招くとされ、現在製造禁止になっている。
ヘミングウェイ、ドガ、ロートレック、ピカソなどの芸術
家に愛された為、グリーン・ミューズ(緑の詩神)と、
また、催淫性があるとの疑いからグリーン・ゴッデス
(緑の女神)とも呼ばれている。