明け方、自室ではない寝台の上で目を覚ます。

特に色気のある話ではない。単に、執務室から脱走し、城下の宿に潜り込んだだけである。実に衝動的かつ思慮の浅い行動だが、発覚さえしなければ何の問題もなかった。

「────」

身体は、睡眠欲は満たされたと判断したのだろう。クルガンは空腹を覚えていた──そういえば、しばらく固形物は何も食べていない。しかし、流石に城の食堂も開いていない時間だ。

クルガンは、宿の階下に降りていき、勝手に厨房に入り込んだ。
自由度が高いがために選んだ粗末な宿の厨房には人影がなく、雑然としている。朝はまだ早く、店の主人は寝ているのだろう。

手袋を外し、服の袖を折る。
小さな鉄鍋を拝借すると、クルガンは天井から吊るされているソーセージをむしりとって、焼いた。脂を跳ねさせているソーセージをしばらく眺め、その隣に卵をふたつ割り入れた。

「…………」

野菜置き場を覗けば、芋と、南瓜と、蕪と、タマネギがあった。どれも一手間必要そうだったので更に籠をひっくり返し、人参を発見する。ひょろひょろとした人参の泥を洗い落として帰ると、卵が焦げかけていた。

執務室に置いてきた「代理」──少なくとも、シードと署名する能力はあるはずの山猿──が、以前、上手な卵料理の要点などという知識を何故かクルガンに向かって喋ったことを思いだしたが、内容は努めて聞き流していたので覚えていない。また、もう作り終えてしまったのでどう転んでも活用の方法がない話だった。

「…………」

しばらく考えてから、何となく、クルガンは卵の上に塩と胡椒を振った。
また、人参の上に砂糖をかけてみた。

悪くなかった。