普段なら、なんでもない距離だ。
すぐそこに出口が見えている。光がこぼれている。

けれど、今のシードにとってそこに辿り着くのは本当に大変なことだった。
もう、色々なものがわからない。シードは強かったから、死をこんなに間近に感じたのは初めてだ。

「今まで……人なんて、何人も、殺してきたけどよ……」

戦場以外では、初めてかもしれない。

「……後味、わっるー……」

唾だか血だか汗だかよくわからないが、とにかく口の中にたまったものを吐き出して、シードは呻いた。
胸が苦しい。上手く息が吸えない。とにかく──どうみても、どこをみても、シードを安らいだ気持ちにする要素がまったく見当たらない。



「死にたくねーなぁ……」

ぽた、ぽた、と階段に液体が滴った。
その音を聞きながら、シードは呟いた。


「死んじゃ、だめだよな……」


ぽたり。ぽたり。


「……殺した、やつが、こんな所で、止まっちゃ、だめだよな……」


思うように動かない足を、引きずるように持ち上げて、一段。
もっと時間をかけて、もう一段。



「あー」



シードは意味のない音を喉から垂れ流しながら、一歩一歩階段を登った。
光は見えるが、酷く遠い。

ぽたり。ぽたり。
ぽたり。




「重いなぁ……」