「え?」

ココって天国?
いやァそうすると天国って妙に俗っぽい仕様!夢とかお花畑とか可愛いエンジェルとか全くいねぇ!いるのは目つきの悪ィ凶悪犯罪者だけかよ。
……あ、そうなのか地獄なのか、ソレなら納得ですよねってイヤ納得出来ねェよ何で俺地獄落ちなんだよだったら生前もっといい目を見てしかるべきだろうが!

取り合えず俺は現実を把握する為に点呼してみた。

「……コーザ?」
「何だ」
「マリモ?」
「ふざけんな」

イヤ誰もふざけてねェよ。この場じゃそりゃ路上で昼寝してるテメェ以外にねェよ。
何故か地面に寝そべっていた(多分芝の代わりになろうとしている涙ぐましい努力だと推察)野郎が、首筋をさすりながらむくりと起き上がる。イヤ、別に寝てていいというかむしろ寝ててくれ話がややこしくなる、後でちゃんと踏んでやるから。
俺はまだ頼りになる(勿論消去法)のコーザに向かい、説明を求める視線を投げつけた。全力投球だ受け取ってくれ。そして初心者にも受け取れるカンジで投げ返してくれお願いします。

「お前は……」
「な、なんだよ」

呆れたようなツラで見られて、うろたえる。いつもそんなカンジの視線を食らってる気がするんだが、俺はそんなにアンタにとって妙な生物か?一般人としてスゲェ平均スタンダード仕様だと思うんだけど。やめてくれよそういう溜息、なんか悲しくなるから!

「……頭を打って気絶したお前を連れて無事、脱出。お前の命を狙っていた機関は無事壊滅だ、俺には腹立たしい事だがな」

あ、そうなの?無事壊滅って何かスゲェ言葉だな……つか、つかちょっと待って、何か一件落着っぽく纏めんなまだ早ェ!
この突然変異アリマリモが無駄に元気に光合成してるのはいいとして、そんで俺の命の安全が保障されたのは滅茶苦茶いいとして、あの、俺的にスゲェ重大な事がまだ残ってるんですけど!
壊滅って、そりゃあんだけ景気良く爆発炎上してりゃあそうだろうけど、それだと困る事があんだよ。

「じゃ、じゃあ、あの、俺の資料とかは──」
「実験のデータ?」

コーザは察し良く俺の言いたい事を理解してくれた。何で同じサイボーグ類型なのに、主にコミュニケーション能力にこんなに差がありやがるんだろうか。

「消えただろう」
「へ?」
「処理する手間が省けたな、警察に見つかっては面倒な事に──おい、どうした」

がくり、と膝を突く。
鋭い痛みが脳天を直撃したが今はそんなんどうでもいい。どうしたもこうしたもあるかクソボケ、今あっさり俺の死刑宣告をしてくださいましたよね!
俺の──この俺の体が、この頭が、誰のものだか知るすべが、もうないって?
絶望じゃねーかこの野郎……!

「じゃ、俺は、俺は……一体誰なんだよ……!」

俺は今までの決意とか努力とかがガラガラと音を立てて砂になって崩れていくのを確かに感じた。大体位置で言うと後頭部辺り。
呆然としている俺を放って、頭上では妙な会話が交わされていた。オイ、このいかにもショックを受けてます的な悲劇の主人公をよくもまあそこまで無視できるな。

「……またここからなのか」
「……らしいな」
「付き合っていられん。俺は帰るぞ」
「ああ」

何でテメェらそんな普通の友達っぽい会話!?
俺を慰めたり慰めたり気遣ったりするべきだろうが絶対!つーかあんなピンチから脱出しといて感動が薄い!マジで情緒とか育ててくれよ俺のお勧めの絵本とか貸してやるからアレは泣ける、ってそうじゃねェよ何で俺の思考はいつも逃げの一手なんだよ。

コーザは溜息を吐くと、肩越しに俺に一言だけくれた。

「お前の正体は、そこの男が一番良く知ってる」
「……へ?」

そのまま振り返らずに歩いていく背中を三秒だけ見送って、俺はやっと言われた台詞を理解した。
ぐるり、と首だけ回して、苦虫を噛み潰したような顔をしているサイボーグを見遣る。イヤ、俺の表情取るんじゃねェよどう考えても「えー……?」ってなるのはこっちだから!

「俺は……?」

ぼんやりと呟いた俺の声に続く形で、マリモが言った。

「お前は──」

何事か思案しているのか、その両目は閉じていた。
腕組みをしたポーズで、僅かな沈黙。俺は殊勝な気持ちで、その薄汚れた顔を見上げながら答えを待った。
何事か決意した様子で、その口が開く。

「──全部、お前だ」
「イヤ訳わかんねェし!?」

何か今スゲェ色々省略しただろテメェ!面倒臭がるな俺のアイデンティティを!
ぎゃんぎゃんと喚く俺を片手で制し、マリモは言葉を選びなおす事にしたようだった。あ、そういう気遣い機能とかやっとついてきたのかコレも俺の不断の努力のおかげだな、感謝の気持ちは金で表してくれると嬉しいぞ。

マリモは何か、途轍もなく口に出しにくい事を言い出そうとしているオーラを盛大に醸し出していた。
何?なんなのその気合!?スゲェ怖い!ヤベェよコレ覚悟しとかねェと絶対ェなんかショック受ける、コレ以上の不幸はねェっつったって現実には際限なんかねェワケで、不幸を超える超不幸とか生み出せるんだからな、え、何だよ、何なんだよその沈痛な表情、そんな覚悟決めて言わなきゃいけねェ事なのか?俺の寿命は実験の後遺症によって後三日とか、そう言うカンジか!?

更に三十秒ほど何事か迷った挙句、マリモはようやく口を開いた。




「お前は……サ、シャンジだ」

は?




「………………………………」
「………………………………」

何だろうこの凄くいたたまれない気分。
何か痒い!色んなところが痒いし痛い!むしろ寒い!つーか何でそこで噛むんだよテメェ、俺の名前はそんなに口に出し辛いか!卑猥な単語か何かか!もうおかしいよコイツ俺の方が恥かしいよどうしてくれるんだこのマリモ野郎もう駄目だ色々と駄目だ取り合えず顔合わせらんねェ……!

永遠にも感じる拷問に似た時間の後、気を取り直したようにマリモは言いなおした。どんな面の皮だよテメェ、俺の方がダメージデケェよ。

「──俺の知ってるお前は、一人しかいねぇ」

何、それ。
全然理由になってねェよ。テメェの知る、俺だと?

「トーマスは……?」
「知らねえ。誰だそいつ」
「じゃ、サ、サイレンサー、は……?」

ロロノアは、巨大な溜息を吐いて肩を落とした。

「そいつも知らねぇ」
「う、嘘吐くな!テメェの相棒じゃねェか、テメェの大事な、」
「だから知らねぇよ。誰の話だ──随分前に死んだんだろが、そいつは」
「イヤ、だからソレがテメェと一緒にいたこの顔の、俺と同じ顔の」

俺の言葉を遮って、ロロノアは断言した

「そいつなら死んでねぇよ」

え?
ええ!?ちょっと待て、なんか色々と大前提から崩れてくる!

「言っとくがな、俺はテメェを『サイレンサー』なんて気取った名前一度も呼んだ事ねえぞ。阿呆か馬鹿で十分だ」

俺は色々と混乱した。
言いたい事がわかるようなわからないようなわからないようなわからねェよクソボケ。
何か誤魔化そうとしてるようにしか思えねェ。だって、誰も俺を見ねェんだ。

「……だって、俺、混ざってるって」
「何がだ」
「色々、記憶とか、能力とか、色々──だから、俺は、ここにいるこの俺は、何かの拍子で消えるんだって……!」

そうコーザは説明した。
俺は十分心当たりがあった。俺の記憶がたまにぶっ飛ぶことも、言ってる事が論理的に矛盾してる事も、何か現実を歪めてしまってる事も。

「だから、俺は、消えないモンが欲しいんだ、あの約束を、あの約束だけは、忘れねェから、果たさなきゃいけねぇから、それだきゃあ覚えてるんだよ、だからその『俺』を」
「消えねぇよ」

あっさりと奴はそう言った。
消えてたらもっと俺は楽なんだとまで言った。何様だこの野郎。
でも俺はなんか呆然としちまって、咄嗟になんも言えなくて、ぽかんと口を開けるだけだった。

「混ざってるだと?だから、どうした」
「だから、って……」

え?コレって結構大事だろ?
悩むべき所だろ?そうだよな?だって、だって、俺は──『俺』には、待ってる奴がいて。
そこではきっと必要とされる。
それだけが俺を救ってくれる。

「約束なんか、もう果たした」
「──え?」
お前が、果たした」

腹を空かして、俺を呼んでる、叫んでる、あれは?
そこで、あの泣きたくなるような焦燥感が見事に綺麗さっぱりと消えていることに気付いて、俺は愕然とした。
ちょっと待ってくれ、じゃあ、俺は?
俺は?

「全部、お前だ。お前は──お前以外にはなれねぇよ」

俺は──

「ウゼェし、ムカつくし、殴りてぇって思うし」

あそこでパイプから手を離せる俺なんて、いねェのかな。
マリモに迷惑かけねェ俺なんて、いねェのかな。
じゃあ、笑って何でもスルー出来る俺なんて、いねェのかな。

俺は消えたり、しねぇかな?
『約束』が、消えても?

「他の追随を許さねえ馬鹿だし」

この、俺で、良いのか?こんな、役に立たない、俺。泣き喚くしかない、俺。弱すぎる──ただの、人間で。
俺はサンジだって、俺がサンジだって、胸張っても、良いのか?

「そんなら、いいだろうが。馬鹿が悩むな」

あんまりにあんまりな台詞に、俺は何故だか少し泣いてしまった。何でこんな涙腺緩んでんだ、誰の策略だよ。
でも泣いてもいいんだ。
俺はパスティスのサイレンサーでも、トーマスでもねぇけど、うん。
泣いてたって鼻水垂れてたってメチャクチャ弱くて格好悪かったって。

俺は、俺か。
そう認めてる奴が、いるのか。

何の役にも立たねぇ、居場所もねぇ、家もねぇ、ある平凡な一般市民だけど、それでいいのか。

「俺の、名前は──」

今度こそ、奴は噛まなかった。
藻類にしちゃ上出来だ。



「……サンジだ」



随分と長い時間が経った気がしたけど、それは全然錯覚で、まだ遠くの方であの建物は煙を上げていた。
何だか嫌な予感がして、俺は顔を上げた。マリモはじっと俺を見ていた。

そして言った。

「じゃあな」

俺はみぞおちにキツい一発を食らった気分で、アホみたいにその顔を見上げた。冷水を浴びせかけられた気分っていったらつまり、コレだ。
緑色の髪の毛をした目つきの悪い男は、まるで何でもないことのように、淡々としていた。俺を、この俺を、サンジだと言ったその口で、今、なんて言った?

「──じゃあな?」

応えず、マリモは身を翻した。
何でそうなんだテメェら、何でそう自分勝手に何でも決める?

「ちょ、……待てよ!何でいきなり」
「もうお前の危険は去ったろ」
「へ?」
「一件落着、お前は自由だ。好きなように生きりゃいい。当面の生活なら、ナミか何かに頼ったっていい」

そうじゃねぇよ。誰がそんな事聞いた。
俺が言いたいのはそうじゃねェ。何でそんな他人事みてぇなんだ、テメェは?

「テメェ、テメェは……どうすんだ」
「好きにするさ」
「じゃ、テメェは、また」

一人で?
何処までも転がっていくって、そう言ってるのか?
それで、どっか冷たい暗い場所で、俺の知らないうちに、死んだりするのか。
ここでお別れって、そう言う事だろ?

「…………」

マリモが俺を振り返った。
何でかと思ったら、俺の脚が勝手に追いかけて、俺の手が勝手に引き止めてた。何でそんな勝手なことしてやがる、俺。

「何だこの手は」
「──俺も連れてけ」

は?今何を喋りやがりました俺の口?
マリモは今度こそ本当に冷たい目で、俺を刺した。

「懐くな。迷惑だ」

あ、そりゃそうだよね。俺もそう思うよ、マジで。でも別に俺ァテメェなんかに懐いてねェぞその辺は全力で否定しておく。
つか俺、何でこんな事言ってんの?全然建設的じゃねェよそんなの。
なのに俺の唇はまた妙な事を口走った。

「だって、俺は一件落着って……じゃあテメェはどうなんだよ!」
「またそれか」

ロロノアは最小限の動作で効率よく俺の手を振り払った。
同情や気遣い、哀れみやその他もろもろを、その目は全部拒絶していた。

「……で?お前が俺と一緒にいてどうする」
「どうする、って」
「それが何になるんだ。足手まといになって、俺に嫌がらせをするのか。それとも」

冷えた言葉。

俺の弾除けにでもなってくれるつもりか、役立たず

じゃあ、と言いかけて、唐突に俺はわかってしまった。
コイツは、ここに、いられないんだ。
この世界には。一般市民が住むような、この世界には。

パスティスなんかを敵に回してしまったこいつには、安心して休めるところなんかないんだ。
マキノさんの所に逃げた俺が、死ぬほど後悔したみたいに。
大切だと思う場所ほど、避けなきゃいけねェ男なんだ。

俺はどうしたら良いのかわからなくて、取り合えず叫んだ。
一件落着?こういうのをそうやって言うのか?
俺は、俺が好きな世界に戻り、コイツは、コイツがいた世界に戻る。
そして今まで通りに時間は流れ、今まで通りの生き方を──

耐え切れなくて、俺は支離滅裂な事を叫んだ。

「それでテメェは幸せなのかよ!?」
「──ああ、幸せだ」

呼吸が止まる。

「お前といるより、ずっと楽だ」

ロロノア・ゾロは本気でそう思っているように見えた。
本気で?──本気で。
それが当然なんだと、それこそが自然なんだと、俺は今までの勘違いを訂正する羽目になった。
俺は、この男が住んでいる世界とは、相容れないんだと。

「……お前は、俺が誰かを殺そうとしたらそれを止めて、俺が誰かに殺されようとしたらやっぱりそれを止めるんだろうが?」

そりゃ、そうだ。
頭でわかってても、俺はきっとそうしちまうんだ。
そして──そして、そのツケは誰が払う?

「もううんざりだ。死ぬほど面倒だ」

……そう、そりゃ面倒だよな。
『気付け』
それで、テメェがキツいんだモンな。
『気付け』
こんな奴を連れてちゃ、寿命が短くなるだけだよな──
『気付け!』
こめかみが痛んで、俺は一瞬だけ目を閉じた。滅茶苦茶な怒りが、胸の奥から体中を叩いてる。
何か、俺は思い違いをしてるんだ。

俺は、お前を、棄てたいんだ

その言葉の裏側を。
この男が、誰のためにその台詞を吐いているのかを。

「自己陶酔で俺にすがって、死にたいのか?もう一度言う、迷惑なんだ」

わかりやすい気遣いなんて、コイツに出来るわきゃねェんだ。
俺は諦めた心境で、毒吐いた。なんだコレ、また泣きそうだ。なんで俺がこんな。

「……死にたくねェよ」

やっと落ち着いたこの場所。
この場所を手に入れることを、どれだけ願っただろう。
この場所を俺に用意する為に、誰が、どれだけのものを支払ったんだろう。
コイツらにゃもう、憧れるだけしか出来ない、平穏な、生活。

「なァ、わかったよ」

俺は笑った。
俺を傷付けるその言葉、命令ばっかするその態度、アホみてェなその行動、全部、そんなの全部、何のためなんだよ。


「──テメェさ、俺に、幸せでいて欲しいんだろ」


なんてこった、そんな凶悪な面構えで、テメェの考えは面白すぎる。
全部俺の為かよ。聞いたって絶対ェ否定するに決まってる、けど、もうそれ以外考えらんねェ。
この超絶不器用男が、俺だってな、ナミさんとか、コーザとかに散々言われてやっと認める気になったけど、テメェちょっと可愛らし過ぎんじゃねェの、その思考。
ホント、馬鹿じゃねェの。
何でそんなに格好付けんだよ。
俺が、普通の一般市民の幸せな生活を送って、テメェみたいなののいる世界からは遠ざかって、そんで、テメェの事をいつか忘れても。
テメェはそれでいいのかよ。そのまんまでいいのかよ。

テメェが嫌ってるお綺麗さと、それって何処がどう違う?

「テメェ、悲劇が好きなのか?」

賢い登場人物に、最善の行動。
美学を尽くして、選ぶ別れ。どうしようもない終わり。
そういうのが好きな奴はいる。

誰もがベストを選んだ結果だったら、許せるのか。
お前はそこが幸せで、俺はここが幸せで、コレが一番いい選択だって?

俺はイヤだ

そんな物分りのよさは大嫌いだ。
そんな風な美談なんか、俺は欲しくない。そんな風に、何処もかしこもすっきりと、丸く収めてどうすんだ、俺の気持ちが収まりゃしねェ。
誰かの気持ちを無駄にするって?
そんなモン知るか。

「特に、自分が演んのはよ、絶対ェお断りだ」

ああ。悲劇ってのは綺麗なんだよな。
とってもとっても、ウゼェくらいに綺麗なんだ。
涙だって、簡単に流れてくるくらいさ。綺麗に終わっちまうことが出来んだよ。

俺がここでありがとうっつって、ちょっと泣いて、けど結局は道理をわかって、その背中を見送る。
それでいいのか。エンドマークか。綺麗な絵面?誰が決める。テメェか。却下だ。

惜しまれて、慈しまれる。
散る桜。落ちる椿。終焉の美しさ。
綺麗に途切れた終わりに観客は溜め息を漏らすけど。

でもそんなのは、自分のための物語じゃない。

「潔く別れてなんかやらねえぞ」

だって嫌じゃねぇか。
死ぬほど嫌じゃネェか?
綺麗なフィナーレなんてさ。馬鹿みたいだ。そりゃ誰のためなんだ?

だからテメェに言う事があるんだ。耳の穴広げてよく聞けよ。

「連れてかなくていい。俺が、勝手に、歩く」
「な──」
「テメェの隣を、歩く」
「止めろ!」

スゲェ力で突き飛ばされて、俺は地面を転がった。
別にいい、こんなのはもう慣れてる。ほんの軽いコミュニケーションだ、テメェにゃそれしか出来ねェんだから。
俺を、危険なものから遠ざけておくことしか、出来ねェんだろう。
そんで、いざという時に、目的を果たしたらそれでいいやって、俺が幸せだからもういいやって、そんなのマジでやってられるか。

「……この、チキン野郎」

立ち上がる。
この痛みは何のためだ?何の為に俺は立ち上がって、テメェをぶん殴ろうとしてる?──俺の為だ。
テメェは、誰のために、俺をここに置いてこうとしてる?そりゃ、俺のためじゃねえだろ。
目の前で死ぬんじゃなきゃいいだろって、そりゃどんな勝手な解釈なんだよ。
その逆の事がなんで考えられねぇんだよ。テメェホント頭弱い人だな。

「一緒に生きろ」

俺から逃げるんじゃねェ。
俺が死ぬ恐怖くらい、背負え。背負って足掻けよ。
ボディーガードなんだろ?勝手に契約破棄すんな。

「覚悟を決めろ!」

俺が死ぬのが怖いって、自分が死ぬのが怖いって──言え。
失うのがイヤだって、言ってみろ。




言ってそれでも、俺といろ。




「死ぬ気で俺と生きろ!」

俺は、ホントにコイツからしたら簡単に避けられるような動作で、渾身のパンチを繰り出した。
でもマリモは、避けなかった。いい態度だ。

テメェはもう、俺の人生にめちゃくちゃ関わっちまってんだよ。
通行人Aって今更名乗られても、もう遅ェんだよ。
置いてくな。
俺を置いていくな。
俺は、テメェを、楽にしてやるつもりなんざさらさらねェよ。



「……お前、卑怯だ」

ロロノアは、立ち尽くしたまんまでそう言った。
何だ、前から知ってたろ?

「お前、ここで幸せに暮らせんのに」
「おお、テメェのせいだ。責任取れよ」
「死ぬかもしんねえ所にわざわざ来る必要なんかねえだろ」
「お荷物になる自信はあるぜ。でも、死なねェ。悲劇は嫌いだ、死ぬ気で生きる」
「死ぬ気でって、お前な」
「テメェに迷惑掛けまくって、付きまとってやる。殺人とか禁止だ。後死ぬのも禁止。幸せでいなきゃマジ泣かすから」

俺は、奴の襟首を引っ掴んで睨んだ。
キスが出来そうな距離で、でも思いっきり憎ったらしい調子で、こう聞いてやる。

「ご意見は?Sir」

俺は内心滅茶苦茶ビビってる。俺が、この俺が、こうまで突っ込んで切り捨てられたら、そりゃもうホント救いようがねェ話だ。
ロロノアは、一瞬黙り込んで、それからこう答えた。

「……死ぬ気で頑張るお前は、俺は大嫌いだ」

襟首を掴む俺の手を、容赦ない力で外しやがった。
テメェ、怪我人にちったァ気遣いってモンを──あ、する訳ねェな。したら偽者だな。俺がそんな下らねェ事を考えている間に、台詞はまだ続いてた。

「けど……死ぬ気で生きるお前なら、俺は」

外した手を、掴んだ。
オイオイ、レディにやったら絶対ェ嫌われんぞ、その乱暴さ。

「──ちょっとだけ嫌いだ」

何ソレ。
馬っ鹿じゃねーの。ホント、馬鹿。
何だよその顔。

馬鹿は馬鹿みてぇなツラで、ぶっきらぼうに言った。
俺は寛大にその暴言を許した。

「お前は馬鹿だ」
「ああ」
「お前は馬鹿だ」
「おう」
「お前は馬鹿だ」
「それで?」

認めるのが嫌で仕方ねェって様子で、ロロノア・ゾロは吐き捨てた。

「…………俺と同じくらい、どうしようもない馬鹿だ」

目が熱くて胸が痛くて呼吸が苦しくて、もう滅茶苦茶だ。今の俺の顔面の有様なんて想像したくもない。
何処もかしこも精一杯だ。俺の人生と同じだな。
俺はもう、どうにもこうにも堪えきれずにこう言った。

「死ぬなよ」

俺に出来る最高の笑顔で。

笑った。




「──ああ、約束だ」







































Shall we go together?

OK,OK──You win !













D...and RESTART!