夢の果て。
夢の果て。
『お前に、何がわかる?』
『ああわからねぇよ』
『………テメェの事なんてわかってたまるか』
「……………聞けよ、クソコック」
ああ?
なんだってんだよ馬鹿剣士。
偉そうに言うな。それからその見苦しい鼻血とか拭け。
「テメェも知っての通り」
おお、知ってるぜ?大抵の、事ならよ。
テメェのキレどころなら、誰より詳細に知ってるつもりだ。馬鹿さ加減も。
「俺の」
ぼたり。ぼたりと。
血が、落ちた音。
テメェの刀から。
指先から。
俺の………唇からか?
「俺の手はもう血みどろで」
お前の手だ?
そんなもん、見ようと思った事もねぇ。
「……………剣士ってのも大義名分かも知れねぇ」
おい。
テメェ。
「どんなに言われても、人の為には生きらんねぇしよ」
「はっきり言って、外道だよ」
ボケ。アホ。筋肉馬鹿。
脳味噌湧いたか?知恵熱か。
ざけんなよ。
…………何を、ほざくつもりだ。
聞きたかねぇよ、そんな戯れ言は。
テメェが目指すのは高みだろ。走って走って走って、振り返りもしねぇで見据えてるのは。
光り輝く、果てだ。
「どんだけ真っ直ぐ生きても」
「どんだけ潔く、生きても」
聞きたくねぇんだ。
聞きたくねぇんだ!
「―――――そりゃ、人を斬るって事でしかねぇ」
知ってるから。
黙れよ。
「沢山斬り殺して」
「いつもなんか踏みつぶしてよ、そいつらに」
「勝手に踏み台にした、そいつらに」
夢の。
「ごめんなさいなんて、どのツラ下げて言える」
夢のために。
「でも俺はもう、とっくにそれを選んでて」
いつも傷つくんだ。
今更テメェが頭使ったって、どうにもならねぇ事があるんだ。
「どう足掻いたって俺の夢は、それで」
だから。
お前は馬鹿なんだって。
「もうどうやっても」
馬鹿なら馬鹿らしく最期まで馬鹿でいろよ。
輝く果てを夢見ながら。
「綺麗にはなれねぇ」
……………………………………バカヤロ。
まぶしいんだ。
目が、霞む。
なあ。
…………………何を、見てる?
「夢に引きずられて」
「夢にボロボロにされて」
「それでも、その夢しか俺にゃ、縋るモンもねぇんだ」
「そんために後ろは振り向けねぇし」
「何かを守れるわけでもねぇし」
「俺の、命だって」
「好き勝手に放りだしてんだ」
「散々まわりに迷惑かけながら」
「我が儘でつくった屍体の山のてっぺんに、いんだよ」
今更。
「ホントは俺なんか、死んだ方が人様の為だ、よなぁ」
なんでだ?
「………………わかってんだ、実際」
うるせぇ。
うるせぇうるせぇうるせぇ。
そんなん。
ちっとも聞きたくなんか、ない。
そういうのは俺が喚いてりゃ、良かったんだ。
馬鹿だ馬鹿だって言われながら、テメェは馬鹿でいりゃ良かったんだ。
俺ごときの台詞で、未来の大剣豪が揺らいでてどうすんだ。
俺はどこかで安心しながら、テメェの馬鹿さを笑ってたのに。
お前は。
馬鹿みてぇに壮大な夢、見てれば。
それで。
…………………テメェの事なんて。
知りたくなかったんだ。
「でも」
「でもよ」
足がふらついて、倒れそうになって。
それから。
…………それでも。
クソ剣士が刀を握り直すのが、見えた。
「夢、叶えるためには」
「やっぱり死ねねぇから」
「夢、叶えるのは」
「血にまみれた人殺しの俺、でしかねぇから」
「俺の手は」
「そういう風にしか」
「動かねぇから」
テメェが、よく。
自分の両手、空にかざしてたのは知ってたよ。
あかいあかい、あの夕日に。
手のひらが、染まって。
何考えてたのかなんて、わかりたくもねぇ。
だからよく、喧嘩売ってた。
いつも。
後ろ、振り向かずに。
前だけ見てた。
けど本当は。
前しか、見れなかったんだって。
知ってた。
綺麗な夢が見たかった。
そんなんどこにもありゃしなかった。
けど。
それをわかって。
ちゃんとわかって。
いい加減、厭になるくらい。それをわかってて。
それでもその為に生きるなら。
生きられないなら。
誰が泣いたとしても。
誰が叫んだとしても。
命を惜しむなんて高等技術、お前にゃ無理なんだって。
俺もさ。
…………知ってたんだ。
馬鹿みてぇだろ。
「だから」
「だからよ」
「夢の『果て』にはお前がいろよ」
「お前を殺すのは………俺だろ」
ああ。
そうか………
俺が、お前を、埋めるのか。
お前が、俺を、埋めるのか。
むちゃくちゃ遠くて。
いっそ見苦しい程に惹きつけられる、汚れた、その。
夢の。
夢の、果てで。
いい加減焦れたオッサンが、棘付き棒を引っこ抜こうとした。
その腕を、掴む。
強烈な既視感。少しある違和感。どうでもいいけど、俺を見下ろすなボケ。
考えてみたら。
こんなオッサンが、俺を殺せるワケ、ネェんだわ。
だって、俺の。
俺の命はさ?
こんな奴の、為にあるんじゃねェもんよ。
惚れた奴にしか、やらねぇって。
何度も。
いつだって。
そうやって。
ここまで。
来たんだったよ。
掴んだ腕に、力を込める。
残念だがオッサン。テメェの出番はねぇ。
「……………ハ」
夢を追うことを。
何かを捨てることを。
お前が怖いって言えねぇなら俺が言う。
………………お前が死ぬのは、怖いって。
何度も。
何度も。
言ってやる。
汚れた命を。
お前の命を、俺が惜しむよ。
お前を殺すのは。
「そいつを、殺すのは……………俺だ」
俺が、殺すんだ。
他の誰にも、その権利は、ねぇんだ。
だからこの馬鹿を死なせねぇ。
馬鹿みてぇに死に急ぐ真っ直ぐなこの馬鹿を。
俺が、死なせねぇ。
なんだ、簡単な事じゃねぇか。
俺がここにいる。
それならよ。
死なねぇじゃん。テメェ。
んだよ。
…………そんなんずっと、わかってたことだったな。
俺はスゲェ欲張りで。全部が欲しくて。
何も、切り捨てられねぇから。
余所見ばっかりで。矛盾も多くて。失う恐怖にビビリまくりで。
テメェから見たら、スゲェ馬鹿みたいなんだと思う。
俺だって、テメェが馬鹿にしか見えない。
そりゃ、当たり前だったけどな。
だって俺は。
お前と同じじゃ、ねぇんだから。
お前に勝つとか。負けるとか。
対等に?
お前に合わせるとか。
俺に合わせるとか。
同調して?
命か。
夢か?
……………………アホかい。
俺がテメェとわかりあえちゃったら、それこそ世界の終わりだろがよ。
俺に、出来ねぇコトは沢山あるけど。
そんなん、めちゃくちゃ知ってっけど!
泣いても喚いてもどんなことをしても。
コイツに出来ねぇ事を、俺がやる。
………そうだ。
全然潔く、ねぇよ?
ソレが、俺の。
イイトコなんだろ、baby?