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夢の果て。











夢の果て。







その果てに、一体何が見えるのか。







 あー、腹が痛ェな。
 酷ェ目覚ましじゃねぇか。

 取り合えず、この邪魔くせぇ棘付き棒を退けろよ、オッサン。
 俺ァピンで留められた虫扱いかよ?内臓出るって言ってんだろよ。

 うー、煙草吸いてェなァ。
 口ん中、じゃりじゃりする。

 そんで、ナミさんの顔が見てぇ。
 こんな、目ばっかギラギラ光らせた血塗れクソ剣士と、さっきから昆虫標本作りにいそしんでるオッサンペアじゃなくてよォ。こりゃ絶対ェ精神攻撃として通用するね、世界的に。

 ……………なァんか俺。前もこんな目にあったような気がするんだけどよ。
 そういう星の元に生まれついてんのか?
 それともそういう趣味の奴ばっか寄ってくんのかよ。
 どっちにしろクソ虚しいぜ。

 つかよ。

 お前なに、そんな必死になってんの?
 俺とお前、そんなんじゃねぇだろうよ。
 いつからそんなオウジサマに成り上がったんだ?少年。

「……………そいつを殺すのは、俺だ」

 なんだってんだよ、一体。
 んな事とっくにわかってんだ。
 でもよ。

 無理だな、クソ剣士。
 このオッサン、今のテメェが勝てる相手じゃねぇんだよ。もう百年修行しろボケ。
 うーわ。んな余所見してるうちにまたヤられたよ。メチャクチャ格好悪ィなテメェ。

 だから、逃げろって。
 俺ァもう、ココで死んだフリしてやるからよ。
 そんでテメェがいなくなってからパワーアップして復活して、このオッサンをボコにすんだから。
 んで後からカッコ良く登場よ。本物プリンス。どうよこの計画。

 …………て、そんなん言えたとしても、聞くヤツじゃネェって。
 オリャもう散々わかってんだケドよ。そんで飽きる程殺し合いもしたしな。
 テメェがもうちっと、聞き分けがイイ奴だったら。
 もしかしてもしかしてもしかしてもしかしたら、仲良しこよしになれてかもしんねぇのに、よ。

 ああ、現実はキビシイなァ?

 でも俺はスゲェ諦め悪ィ男だから。
 無駄だと知りつつ、こう言っちまうんだよなァ。
 ホント、なんでこんな、馬鹿なんだか。
 誰か教えてくれると嬉しい。

 あ、勿論俺がじゃなくてテメェがだぜ?

「逃げ………ろ、クソ、剣士……………」

 オッサンが、メチャクチャ意外そうに俺を見た。
 お生憎、まだ生きてるんだよオリャしぶといモンでな。

「……………何言ってんだ、テメェ」

 ああ、予想通りの反応が今ココに。
 こういう時くらい外れろってんだ、コラ。

「うっせ、い………から行けよ………アホ」
「アホはテメェだ、クソコック。勘違いすんな」

 ……………アホにアホと言われるほどムカつくこたァねぇな。知ってたかアホ。

 おいクソ剣士。
 お前もう、実は立ってるのも辛いくらいの怪我なんだろ?
 散々この棘付き棒、喰らってた癖に。ヤセ我慢してカッコつけてんなバーカ。
 そーゆートコが気に入らねェんだよ。
 お互い様だろうケドよ。

 クソ剣士が、口を歪めて吐き捨てた。
 なんだその凶悪なツラ。イヤ元からだけど。

「………俺は、テメェが」

 軽蔑の視線は気にならねぇ。いやって程慣れてる。

「そうやって無様に捕まってるから逃げねぇんじゃねえ」

 なんだ?唇つり上げて。

「そうじゃなくとも、俺は逃げねぇ」

 ………………もしかして、それ。
 笑顔のつもりか?
 そんなじゃ安心もしねぇよ。むしろ恐怖だぜオイ。

「背ェ向けたら」

「たった一度でも背を向けたらよ」

 ああ。

「そりゃもう、俺じゃネェんだよ」

 ………わかってた。
 わかってたよ。

 テメェは同じ言葉喋っても通じない宇宙的大馬鹿だって、わかってたんだ。

「負け犬にはなれない」

「俺以外が、夢ェ叶えたってしょうがねぇじゃねぇかよ」

 オマエがお前以外になれねぇ事なんて、とっくに。
 スゲェ頭悪く突っ込んでくしかねぇんだって。

 俺も、お前も。
 どっか似てんのか全然似てねぇのか、そんな事すらちっともわかりゃしねぇ。


 なんだか無視されっぱなしのオッサンがイライラしてんのがわかる。
 そりゃそうかもなァ、テメェより弱い雑魚二人の癖に、テメェを無視して見つめ合っちゃったりしてんだから。

 ………………ワオ。クソ寒ィじゃねェか。

 オイコラ、クソ剣士。
 テメェ、俺の言ったことちゃんと覚えてんだろうな。
 俺ァ諸事情により、今は口が上手く動かせネェから、その腐れカビ頭働かせてちったァ思い出してみやがれ。

 覚悟、決めろって。
 言ったよな?

 泥にまみれる、覚悟をだ。

 こんだけ長ェ付き合いなんだから。
 俺の言いたいことくらいわかるだろ?
 不本意ながら、人間以外とだって通じ合えそうなくらいの時間だぜ?

「命乞い…………とか」
「逃げを打つとか」

 ホラ、わかってんじゃねぇか。

「そんな、無様な」

 ……………でも絶対ェ言うこときかねぇんだ、この馬鹿マリモマン。
 いいやマリモ以下だ。アオミドロだ。

「無様な俺」

「そんなん、テメェにだけは見せらんねぇじゃねぇか」

 なんだよ、それ。

「負けたく、ないだろ」

 嬉しくねぇよ。
 つか、うぜぇよ。

「お前の強さは………俺にはねぇよ」

 そうだな。
 テメェは俺とは違う。

 全然、違う。

 少しも重ならなくて。
 ホントに、全く――――





「俺はよ」

「負けらんねぇから、強くなんだよ」





 ――――――全く、見事に噛み合わねぇ。
 ココまで来たら、笑えるくらいだ。

「死んでもソレは動かせねぇ」

 バカヤロバカヤロバカヤロ。
 死んじまったら、夢ェ叶えられねぇじゃねぇか。
 お前の大事な大事な、夢がよ。
 馬鹿みたいに大事にしてる、夢がよ。

 死んじまったら。
 俺ァお前を殺せねぇじゃねぇかよ。

 だから馬鹿だって、言ってんだ。

 でもテメェは出来るって思ってんだろ?
 どんだけ馬鹿強ェ敵だって、自分の力で勝てると思ってんだ。
 そんで、どんだけ無茶しても死にゃしねぇって。

 でも、そんなん嘘っぱちじゃねぇか。

 お前、死ぬだろうがよ。


 心臓刺されたら。
 首はねられたら。
 背中の骨が折れたって。

 勝手に、すぐ死んじまうじゃねぇか。
 化け物なんかじゃ、ねぇじゃねぇか。

 俺は。
 俺は。

 クソ。
 馬鹿野郎って、ちゃんと言えたかわかんねぇ。
 でもクソ剣士が顔を歪めたのだきゃ、ちゃんと見えたんだ。

 ――――――なんだよ、そのツラ。

 かなり笑えるぜ?





                       『夢の果て』