人斬り=人でなし。
人斬り=人でなし。
ラヴィは絶望のうちに声を張り上げた。
「何で………何で、死に急ぐの!」
理解できない。
無意味なプライドだ。
ゾロの行動は、せっかく制した男達を挑発している。
そんな、ボロボロの身体で。武器も何も持たずに。
強がるのが、やっとではないか。
どれほどの気合があろうとも。
どれほどの気迫を持とうとも。
――――この先に、待つのは、死だ。
男達の剣が光る。ゾロへの最終通告のように。
ゾロは、世間話のようにぽつりと呟いた。
本当になんでもないことのように、軽く。
「死が怖くねぇとは、言わねぇよ」
死にたいなどと、思ったことはない。
生きたいと、思ったことは何度もある。
本当は。
歯が鳴るくらいに。
「そりゃ嘘だ。スゲェ、怖ぇ。きっと怖ぇ」
怯えて怖がって、震えている。
怖い怖い怖い怖い、当たり前だ。
「ただな」
心臓が凍るほどの恐怖。
目眩がするほどの嫌悪。
「俺の魂が死ぬ方が、ソレよりもっと怖ぇんだ」
そこでようやく、ゾロはラヴィを振り返った。
「ほどほどに、生きるのが好きか」
突き刺すように、告げる。
「俺の命は、俺のものだ」
死んで欲しくない、だと?
勝手な言い分だ。
「誰が泣こうが、喚こうがよ」
「悪ィが、知った事じゃねぇ」
ゾロの声音は、あくまで普通だった。
それこそ、残酷なまでに。
「そこまで責任取れるかよ」
銃を降ろせ。
俺の戦いを止める権利は、お前にはない。
「俺は、死んでも」
俺の、生きる意味は。
お前には、ない。
「振り向かない」
ゾロは進み続ける。ラヴィに背を向けて。
命を賭けた哀願も。
この男の目には入らない。
恨んでもいい、こんな男は。
ラヴィは泣き崩れた。
+++ +++ +++
「世話になったな」
別れの言葉は、ただそれだけ。
だが、ラヴィは文句を言わなかった。
ただ、柔らかな笑顔を作って見せた。ゾロの背中に向かって。
羊のフィギュアヘッドの可愛らしい船が、それには随分とそぐわないようにみえる剣士を乗せて、桟橋から離れていく。
ラヴィは黒髪を風に遊ばせながら、それを見つめた。
その影が遠く水平線に消えるまで。
見送る。
それくらいは、許されても良いはずだと。
塩辛い風が、何かを誤魔化してくれた。
+++ +++ +++
ようやく元の位置に戻ってきた刀。
ゾロは定位置の後甲板に寝転がった。
その鼻を、微かな紫煙がくすぐる。
ゾロは首を鳴らした。
腕や足の固定器具が邪魔だが、まさか外すわけにもいかない。
「―――訊かねぇのか」
あの島でなにがあったのか。
ルフィの好奇心、ナミのゴシップ好きには辟易した。ウソップは鬱陶しいくらいに怪我を心配してきた。
呆れた顔が返ってくる。
そしてきっぱりと宣言された。
「テメェの事なんざ知りたかねぇよ。勝手に遊べ」
………………可愛くねぇ。
人斬り=人でなし:END